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第2章 133 たとえ短い間でも

「美味そうな匂いだな〜…今夜の料理は何だい?」


彩花が俺のテーブルの前に料理の乗った皿を置いてくれた。


「これはね、ガパオライスって言うんだよ?タイ料理でね…最近はまってるんだ〜」


「そうなのか?何だか食欲をそそられる匂いだ…」


彩花の作る料理は何でも美味しいから楽しみだ。」


「うん、すごく美味しいんだよ?それじゃ食べようか?」


「そうだな」


「「頂きます」」


そして俺たちは2人向かい合わせに食事を始めた。

彩花の言った通り、ガパオライスはとても美味だった――。




 食事が終わった後、2人でビールを飲みながら彩花に話しかけた。


「彩花、明日一緒に卓也の誕生プレゼントを買いに行かないか?」


「うん。でもそれって…今夜は一緒にいられるって…こと…?」


今夜一緒に……。

彩花からその言葉を言われると、くすぐったい気持ちになって来る。


「ああ、勿論さ」


愛しい恋人の肩を抱き寄せ、額にキスをする。

その後、2人で明日の予定を語り、明日は2人でこの時代で流行した恋愛映画を観に行くことにした。


彩花の前で改めて恋人宣言をすると、照れて真っ赤になる彩花。

だから、ついからかいたくなってしまう。


「え…?ひょっとして…そう思っていたのは俺だけか…?」


すると、彩花は大きく首を振って否定した。


「う、ううんっ!そ、そんな事無い!わ、私達は…恋人同士…だよ?」


そう、その言葉を直接彩花から聞きたかった。


「良かった…俺だけがそう思っていなくて…」


彩花を抱きしめ、耳元で囁く。


「好きだ…彩花…」


「私も…拓也さんが好き…」


潤んだ目で彩花が俺を見つめて来る。


彩花……。

そのまま彩花を抱き上げ、ベッドに寝かせると俺は無言で彼女に覆いかぶさり唇を奪った。


好きだ……彩花、愛してる……。


多分彩花と身体を重ねるのは今夜が最後になるだろう。

だから俺は今まで以上に、彩花の全てを味わい尽くすかのように深く深く身体を重ねた。

言葉など交わす余裕も無い程に――。




****


 

 翌朝、俺はこの世界で初めて彩花の為に朝食を作った。


その後2人で映画にも行った。今日が最後だと思うからこそ、彩花と恋人同士としての時間を精一杯楽しんだ。


映画の帰り、彩花がぽつりと俺に言った。


「あ〜…素敵な映画だったな〜…」


「最後の方はちょっと泣いてたよな?」


手を繋ぎながら彩花に声を掛ける。


「や、やだ。観てたの?」


「うん、少しな。でも…俺も感動したよ。一緒に観た相手が彩花だったから尚更かな?」


自分でも驚くほど、正直な気持ちを告げることが出来た。


「あ、ありがとう…でも…最後は悲しい終わりだったね。折角恋人同士になれたのに…彼女が病気で死んでしまうなんて…」


死んでしまう……。


その言葉が俺の心に大きく響く。運命通りにいけば、彩花は確実に6月9日に死ぬ。

それを防ぐ為に俺が身代わりになるのだ。


「そうだな…でも、短い間だけでも恋人同士になれたんだから…悔いはなかったんじゃないかな…」


そう、今の俺のように――。


「拓也さん…?」


不思議そうな顔で彩花が俺を見る。


「よし、次は本屋に行って図鑑を買うか?」


「そうだね」


そして俺達は本屋へ向かった。卓也への誕生プレゼントを買う為に――。





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