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第2章 132 残り僅かな時間

 彩花の6月9日の死は決して免れることが出来ない。


磁場発生装置の運命のラインを辿れば、6月9日に直結している。

だからこそ、俺は…‥。



散らかり放題の研究室に俺と教授はいた。


「上野、又過去に戻るのか?昨日こっちに戻って来たばかりなのに」


教授がPCから顔を上げると、尋ねて来た。


「ええ、当然です。俺には‥‥‥いや、俺と彩花にはもう時間が残されていないのですから」


俺の言葉に、教授の顔が沈痛な表情に変わった。


「……すまないな……上野。俺も色々方法を考えたのだが……南さんの死を回避するにはどうしても大きな代償が必要になる以外方法が見つからなくて……」


「いいんですよ。教授には……本当に感謝しています。彩花に再び会えたのは全て教授のお陰ですから」


「上野……」


「それじゃ、俺そろそろ行きます。教授から与えられた仕事も終わったので」


椅子から立ち上がった。


「上野、俺もついて行こうか?」


教授が声を掛けて来た。


「いえ、いいですよ。教授、何だか忙しそうじゃないですか?また新たな研究でもしているのでしょう?」


「ん?あ、ああ。まぁ……そうだな。そんなところだ」


曖昧に返事をする教授。


「大丈夫です。今回過去に戻るのは6月1日の金曜日と決めてますから」


「成程……週末か。金曜なら南さんと恋人同士の時間を過ごすことが出来るしな?」


教授がニヤニヤしながら俺を見た。


「何とでも言って下さい。それじゃ、行ってきますね」


「おお、行ってこい。恋人同士の時間を楽しんで来い」


何処まで教授はからかいの言葉を俺に向けて来た—―。





****


 

 彩花のアパートに辿り着いたのは20時を過ぎた頃だった。


はやる気持ちを押さえながら、アパートの階段を上る。かつて住んでいた隣の部屋は今はもう誰も住まない空き部屋。

2階に住んでいるのは彩花ただ一人だ。


彩花は既に帰宅しており、窓から部屋の灯りが映りこんでいる。


早速俺はインターホンを押した。



ピンポーン……


インターホンの音が鳴り響き、バタバタと駆け寄る足音が近づいてくる。


そして次の瞬間――


ガチャッ!


目の前の扉が大きく開かれ、息を切らせた彩花が現れた。


「こんばんは。彩花。…ごめん、待っただろう?」


笑みを浮かべながら愛しい彼女に声を掛ける。


「も、勿論…待っていたに決まってる…!」


最後まで彩花の言葉を聞かず、俺は彼女を引き寄せると柔らかな唇にキスをした。


彩花……好きだ。

愛している。


言葉の代わりに、彼女の舌をからめとり……深く、いつまでも俺たちは甘いキスを交わし続けた――。

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