第2章 131 時期にこの世界とも
彩花と別れた後、俺はすぐに自分が借りていた賃貸マンションへ向かった。
「まぁ、片付けると言っても殆ど何もないけどな」
玄関から上がり込むとポツリと呟いた。
引き出しの中に着替え、風呂場に洗面用具、ただそれだけだ。元々ここは仮住まいの為のマンションだったから荷物も無くて当然だ。
「今日で……とうとうこの部屋ともお別れだな」
今迄何度も何度も過去に戻り、俺はこの部屋を借りて来た。
時にはこの部屋で彩花と二人で甘い時間を過ごしたこともあった。だけど、それも今日で全て終わりだ。
もう二度と俺はこの部屋に戻ってくることは無いだろう。
少し、感慨深い気持ちになりながら少ない荷物の荷造りを始めた――。
「どうもありがとうございました」
不動産会社に店員に見送られながら、俺は店舗を後にした。
卓也の部屋のアパートも、自分が借りていたマンションも全て解約した。
「……よし、元の世界に戻ろう」
俺は『時巡神社』へ足を向けた――。
*****
午前10時05分――
濃い霧に包まれ、俺は現代に戻って来た。
「おう、お帰り。上野」
教授はなれたもので、神社の庭に置かれた大きな岩の上に座って俺を出迎えた。
「ただいま戻りました、教授」
教授は俺の手荷物が増えていることに気付いたのか尋ねて来た。
「上野、もしかして賃貸マンションの荷物を整理してきたのか?」
「ええ、そうです。俺はもうあのマンションを使うことはありませんからね。卓也部屋の解約と自分の部屋の解約を同時に済ませてきましたよ」
「そうか……。それじゃ話の続きは車の中で聞くことにしようか?」
「ええ、そうですね」
そして俺と教授は二人で神社を後にした――。
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「上野、ここを出るときは絶望的な顔をしていたが……少し表情が明るくなった気がするが……何かいいことでもあったか?」
ハンドルを握りながら教授が尋ねて来た。
「あ……やっぱり分かりますか?」
どうにも教授に隠し事は出来ないようだ。
「あたりまえだ、どれだけお前と付き合いがあると思っているんだ?それで?ひょっとすると南さんと恋人同士にでもなったか?」
「はい……そうです……」
「そうか、良かったじゃないか」
「教授……」
「どうせ、後僅かな時間しか残されていないなら……悔いの無い生き方をするべきだと思うぞ?これは年長者からの言葉だと思え」
教授の言葉が心に染み入って来る。
「はい……分かりました」
俺は素直な気持ちで返事をすると窓の外に目を向けた。
時期にこの世界とも自分は別れを告げることになるだろうと考えながら――。




