第2章 127 教授との約束
それから俺は自分の本来いるべき世界で1週間程を過ごした。
その間に、全ての身辺整理を終えて自分の家具は殆ど処分した。自分の持ち物を最低限迄減らし、マンションも今月一杯で解約の手続きも終えた。
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午後3時――
「上野、身辺整理はもう終わったのか?」
仕事の休憩時間に研究室でコーヒーを飲んでいると、不意に教授が尋ねて来た。
「ええ。ほぼ終わりました」
「そうか……。親しい相手には別れを告げたのか?」
「俺に親しい相手なんていないのは教授が良くご存じだったじゃないですか?」
肩をすくめて教授を見た。
「あ、ああ……そう言えばそうだったな。悪かった」
教授が申し訳なさげに謝って来る。
「別に謝る必要はありませんよ」
15年前のあの日……俺は目の前で自分の父親によって、この世で一番大切だった彩花を殺されてしまった。
それ以来、人に執着するのをやめることにしたのだ。
常に一人でいれば、人を失う悲しみを味わうことも無い……。自分の心が傷付くのが嫌だったから孤独でいる道を選んだのだ。
「上野‥‥…」
「もとより、この世界に未練はありませんから。あるとしたら……」
「南さんか?」
「はい、そうです。彩花のいる世界が……俺の全てですから」
「そうか?俺から見ると、少し寂しい気もするけどな?」
教授が寂しげに笑った。
「あ……す、すみません!教授!別にそう言う意味で言ったわけでは……」
慌てて教授に弁明する。
「何、冗談で言っただけだ。気にするなよ」
そして教授は再びコーヒーを口にした――。
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土曜日――
午前10時、俺は教授と一緒に『時巡神社』にやってきていた。
「いいか。上野。タイムトラベルは後数回で終わらせろ。そして最後の日は必ず俺の所へ顔を出してから過去に戻るんだからな?」
「また、その話ですか?ええ、勿論分かっています。必ず教授の顔を見てから行きますよ。でも何故ですか?」
すると教授は腕組みした。
「磁場発生装置が使い過ぎて摩耗しかかっている。調整する必要があるかもしれないからだ」
「あ~確かにそれは言えますね。分かりました。そういう理由なら必ず顔を出しますから心配しないで下さい」
「ならいい。それで?次はいつの日に戻るんだ?」
質問してくる教授。
「ええ。GW明けの金曜日に戻ります。この日に戻れば、今まで何処に行っていたか、適当な理由も作れそうなので」
「確かにお前の言う通りかもしれんな。分かった、それじゃ行ってこい」
「はい!」
そして俺は磁場発生装置を起動させた――。




