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第2章 115 吐き出せない気持ち

 大手スーパーの文具売り場にやってきた俺と彩花。


 彩花は卓也の進級祝を何にするかかなり迷っていた。

中々何にするか決められなかったので、俺の提案したペンケースにすることにした。


でも、この時流石に彩花から卓也のストーカーなのかと尋ねられたときには驚いてしまったけれど……。



****


「ふふ…たっくん、喜んでくれるかな…」


彩花は嬉しそうにプレゼントを抱えている。


「喜ぶに決まってるさ。彩花からのプレゼントなんだから」


そうだ、彩花。

子供だった時の俺がお前に親切にしてもらえたこと……涙が出そうになるほど嬉しかったんだからな?


その気持を今、彩花に伝えられないのがもどかしくもあり…苦しくもあった。


「もしかして、それも一種の予言かな?」


「ああ、予言さ」


俺の苦しい胸の内を知ることもなく彩花は無邪気に尋ねてくる。


「そう言えば、拓也さんはたっくんの誕生日知ってるんだよね?いつなの?」


「誕生日……」


そうだ……。

後2ヶ月もすると、運命の6月9日がやってくるんだ。

今度の俺は絶対に彩花を死なせない。たとえ、彩花の代わりに自分が死ぬことになっても、必ずお前を守ってやる。


「どうかしたの?」


返事をしない俺に彩花が尋ねてきた。


「あ、ああ。ごめん…誕生日だったよな?6月9日さ」


「6月9日か…。あ、丁度日曜日だね」


「そうだな」


この日はいつも快晴だった。絶好の外出日よりだ。


「たっくんのお父さん、この日仕事なのかな…」


「…さぁ、良く分らないな」


だけど俺は知っている。

恐らく親父は何があっても俺たちの前に現れるはずだ。

椎名という邪魔者を追いやったことで、彩花の死に繋がる原因は親父だという事は分かりきっていた。


「もし、いないならケーキ買って皆でお祝いしない?」


「……」


ケーキ……お祝い……。

結局、俺たちは卓也の誕生日を祝えたことなど一度も無かったっけな……。


「ねぇ?どうかしたの?」


いつの間にか、俺たちはスーパーの外に出ていた。


「悪い、俺…今日はもう行かないと。これから仕事があるんだよ」


今日はこれから親父の同行を調べなければならない。


「えっ?そうだったの?ごめんね。引き留めちゃって」


「気にしなくていいさ。それじゃあ又」


何も知らない彩花の前で、これ以上平静を装うのは無理だった。

俺は彩花に手を振ると、振り返ることもなく雑踏の中を走った。


ごめん、彩花。

本当は…もっとお前と一緒にいたい。


全てを打ち明けて、苦しい胸の内を全て吐き出せたならどんなにか良かったのに


だけど、それは叶わない願いだ。


未練は捨てると決めたのだから――。



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