第2章 113 明かせない秘密
日曜日の朝――
この日も俺は卓也と一緒にアパートに泊まり、彩花の部屋で朝飯を食べていた。
うん、やっぱり彩花の作る料理は美味い。
そんなことを考えていると、卓也がとんでもないことを聞いてきた。
何と俺が何処に住んでいるのかを尋ねてきたのだ。
まさか2人を監視するために、向かい側のマンスリーマンションで暮らしている…等とストーカーまがいのことを言えるはずもない。
思わず言葉に詰まっていると、今度は彩花まで俺に質問してきた。
俺に電話を掛けてもしょっちゅう音信不通になるのは何故かと聞いてきたのだ。
それは俺が自分の世界に戻っている時のことなのだろう。
当然この時代のスマホが現代に戻った俺のスマホに繋がるはずはない。
「あ、ああ。俺は都内のアパートで暮らしているよ?後…どうも俺のスマホ、調子悪いみたいなんだよね。静電気体質だからかな?時々誤作動起こすんだよ」
何とも苦しい言い訳だ。
「え?静電気体質で誤作動なんか起こすの?」
案の定、彩花は首を傾げたけれども、それ以上追求してくることは無かった。
「あ〜やっぱり彩花の作った味噌汁は美味いな〜」
ごまかしつつも、内心は嬉しかった。
そうか……彩花、俺に連絡を入れてくれていたのか……。
恋人同士になるつもりは無かったが、彩花が俺に連絡を入れてくれていたことを知っただけで胸の鼓動が高まるのを感じた。
そして、その後は卓也に新しい学校に転校してからのアドバイスを教えてやることにした。
何しろ、卓也は俺自身なのだから。
的確のアドバイスをしてやれる。この時代の俺には…どうしても不幸な目に遭わせたくはなかったから――。
****
今日は午前10時には親父がアパートに帰ってくる。
そこで卓也は部屋に戻らせることにした。
すると、卓也は別れ際にまたしても爆弾発言をした。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん…お似合いだよね。夫婦みたい」
「「えっ?!」」
思わず彩花と俺の声がハモる。
そこで俺はわざと明るい顔で頷いた。
「お?卓也。お前もそう思うか?」
「拓也さんまで…!」
「うん。お兄ちゃんとお姉ちゃんが…僕のお父さんとお母さんだったらよかったのに…」
「!」
その言葉に胸がズキリと痛む。
すまない、卓也……それだけは絶対に無理なんだ……!
何故なら俺は……!
言葉に詰まる俺の代わりに彩花は卓也を優しく抱きしめ、言い聞かせる。
それを素直に聞いている卓也。
その姿を見るのが辛くて、そろそろ帰ったほうがいいと促して卓也を部屋に帰した。
パタン……
扉が閉じると、部屋には俺と彩花の2人きりとなった。
「さて…と。俺もそれじゃ帰ろうかな」
一旦、マンションに戻って現在の状況をPCで確認してみよう。
すると、彩花が驚いた様子で声を掛けてきた。
「え?もう帰るの?まだ午前8時を過ぎたばかりなのに?」
「え?あ…だって悪いだろう?1人暮らしの女性の部屋に男がいつまでもいるのは?」
まさか、もっと俺と一緒にいたいと思ってくれているのだろうか?
「あ…ひょっとして、恋人でもいるの?」
「恋人…」
彩花、お前は俺の恋人だったんだぞ……?
様々な世界で…俺達は愛し合ってきたのに、その記憶が自分にしか無いのが何ともやるせ無く…寂しかった。
「いないよ。恋人なんて」
「え?そうなの…?」
「大体、恋人がいたらこんな事していられないだろう?」
「だったら恋人がいないなら、まだここにいない?ちょっと付き合って貰いたくて…」
「えっ?!つ、付き合うって?!」
ひょっとして俺と付き合いたいのかっ?!
「え?う、うん…。実はたっくんに進級のお祝いのプレゼントを買ってあげたいの。拓也さんはたっくんの事よく知ってるみたいだから何が好みか分かるでしょう?」
「あ、ああ…そっちのほうか…だよな。そんな筈無いか…時期的にまだ早いし、今回の俺は…」
期待していた自分が馬鹿みたいに感じた。
「拓也さん?それで買い物は付き合ってもらえるの?どっち?」
「ああ、勿論!卓也の好きなものなら俺は何だって知ってるからな。いいよ、一緒に買い物に行こう」
そして彩花に笑いかけた――。




