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第2章 111 拓也と卓也

 あの後、俺たちは彩花のアパートに招待された。


彩花がカレーを作ってくれている間、俺は子供の頃の自分自身と様々な話をして盛り上がった。

でもそれは当然だ。

何しろ卓也は俺自身なのだから。




その後、彩花の手作りカレーを3人で仲良く食べ終えると俺は当初の話通りに卓也と一緒にかつて自分が住んでいた部屋へ入った。



「お兄ちゃん。本当に今夜は一緒にいてくれるの?」


部屋に入り、電気を付けるとすぐに卓也が尋ねてきた。


「ああ、当然だろう?まだ10歳の子供を1人にさせられるかよ。それにしてもまだ荷物片付けていないんだな〜。よし、2人で片付けるか?」


「うんっ!片付けよう!」


元気よく頷く卓也を前に奇妙な気持ちになりながら頭を撫でた。


「よし、それじゃ…やるか」


「うん!」


そして俺たちは2人で荷物の片付けを始めた――。



****


21時――



「ふ〜……いい湯だな…」


俺と卓也は2人で一緒に風呂に入っていた

卓也は洗い場で髪を洗っている。その体は痣だらけで、哀れなほどに痩せていた。


本当に…子供の頃の俺はなんて不遇な環境に置かれているんだろう……。


「よし、卓也!俺が髪を流してやるよ」


湯船から上がると卓也に声を掛けた。


「本当?ありがとう、お兄ちゃん」


嬉しそうに笑う卓也を前に俺は早速シャワーで卓也の髪を洗い流してやった――。




****


 風呂から上がった俺たちは2人で布団を敷いていた。


「ねぇ、お兄ちゃん」


卓也が不意に声を掛けてきた。


「何だ?」


「お隣のお姉ちゃんて、優しくて綺麗で料理が上手だよね〜」


「ああ、そうだな……」


頷くと、卓也が更に尋ねてきた。


「お兄ちゃん。もしかしてお姉ちゃんのこと好き?」


大きな瞳でじっとこちらを見つめる卓也。


「勿論、好きだ。ずっと前から好きだったよ。何と言っても俺の初恋の女性だからな」


「そうなんだ。あのね、僕もお姉ちゃんのことが好きだよ。だけどお兄ちゃんのことも好きだから……譲ってあげるよ」


「そうか?ありがとうな。卓也」


そして俺は卓也の頭を撫でながら思った。



ごめん……卓也。

彩花の命を守る為に、最悪俺の命を差し出すことになるかも知れない。

その時は…どうか俺を許してくれ……と――。




****


 夜中――



隣の布団では卓也が静かな寝息を立てながら眠っている。


卓也は余程安心しているのだろう。

何しろ、今は自分を脅かす存在がいないのだから。


「早いところ……卓也を奴から引き離したほうがいいかな……」


だが、卓也を児童養護施設に送るのはまだ躊躇われた。


今回、俺は彩花と恋人同士になることは一切考えてはいなかった。

あくまで卓也の身の安全を守ると言う名目で彩花に近付いているのだ。


つまり、卓也を児童養護施設に送るということは彩花との接点が失われてしまうということであったからだ。


「駄目だな……近くにいると、つい欲が出てしまう……」


そして俺は深いため息をついた――。



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