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第2章 103 頬を伝う涙

 翌朝――


いつものように、引っ越しの大型トラックが向かい側の道路に止められた。

そしてアパートに運び込まれていく荷物。

毎回変わらない光景だ。


「やっぱり同じ時間に来たか……当然だよな」


コーヒーを飲みながらポツリと呟いた。

俺の心は疲弊し…すっかりすり減っていた。恐らく引っ越した後…子供の頃の俺は酷い暴力を奴から受けるだろう。


だが……悪いが、もうなるべく俺自信には関わらない。そして彩花にも…。

子供の頃の俺が死ぬことは決して無い。

要は彩花の命さえ助かればいいのだから――。




****


 それは遅めの昼食を食べているときのことだった。


「うん?あれは……?」


何気なく外を眺めながらカップ麺を食べていると、1台のタクシーが停車した。


「誰かタクシーを呼んだのか…?」


少し気になった俺はそのまま窓の外を注視しながら食事を進めていると、なんと彩花が怪我を負ってぐったりしている俺を連れてタクシーに乗り込む姿が目に入った。


「彩花?!まさか…俺を病院に連れていくつもりか?!」


しかし、後を追うにも今の自分にはタクシーを追う足が無い。


「仕方ないな……」


タクシーが走り去った後、食事を終えたると事前に購入しておいた監視カメラを取り出した――。



「……よし、こんなものでいいだろう」


街路樹に隠すように監視カメラをセットすると早速持参してきたPCにカメラから映る景色を確認してみた。


「うん、これなら大丈夫そうだ。道路がよく見えるから彩花の姿を確認することが出来るな」


いつ戻ってくるかわからない2人の様子をずっと窓の外を眺めながらみているわけにはいかない。


PCと監視カメラを常にライブ中継しておけば、2人が戻ってきたときもすぐに気づく。


「恐らく…俺を病院に連れて行ったんだろうな。彩花……俺のことなんか放っておけばいいのに。俺に関わったら…死んでしまうかも知れないんだぞ……?」


そう呟いたものの、内心嬉しかった――。



約2時間後――。


それは本当に偶然だった。

何気なくPCを眺めていた時、タクシーがやってくると停車した。


「まさか……!」


食い入るように画面を中止しているとドアが開き、彩花が腕や足に包帯を巻かれた俺を連れて降りてきたのだ。


「彩花…やっぱり俺を連れて医者に行ってきたんだな……」



やっぱり、歴史は繰り返されてしまうのか?

彩花が俺に関わったということは、親父と椎名の両方から彼女は命の危機に晒されるということになる。


「馬鹿だよ…彩花。お前……どうしてそこまでして俺のことを助けようとするんだよ……」


内心、実は淡い期待を持っていた。


子供時代の俺に関わりさえしなければ…彩花を助けられるどころか、自分の命も守れるのでは無いかと淡い期待をしていたのに…それがものの見事に裏切られてしまった。


「彩花……。だけど、俺はお前のそんな優しいところが大好きだ……」



気付けば自分の頬を涙が伝っていた――。

  

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