第2章 91 彩花の為に
彩花のメールには椎名からのメッセージが届けられていた。
『南さん。今夜は突然訪ねてごめん。それにしても驚いたよ。何処へ連れて行くのかと思ってついて行ってみれば、まさか恋人の住むマンションだって言うんだから。だけどそんな話、俺は信じないよ。もし仮に恋人だったらあんな近くに住まないで普通は一緒に暮らすはずだからね。また明日会社で会おうね。君に会えるのが今から楽しみだよ』
「彩花……あいつ、メールアドレス知ってるのか？」
「う、うん‥‥。会社の連絡用に…全員に割り振られたメールアドレスがあるから」
彩花は青い顔で頷いた。
「そうか‥‥」
このメール‥‥どれほど彩花に恐怖を与えたのだろう。俺の中で椎名に対する激しい憎しみが生まれた。
「た、拓哉さん‥‥どうしよう。明日から…」
彩花は震えながらすがるように俺を見た。
「彩花、つまりあの男は彩花にとって迷惑でしか無いんだろう？」
「うん‥‥」
コクリと頷く彩花。
「よし、なら明日は仕事を休め」
「え？！そ、そんな突然休めだなんて‥‥私が休んだら仕事が…」
俺は彩花の言葉を遮った。
「いいか、よく聞け。彩花」
「な、何？」
「会社って言うのはな、余程のことが無い限り…自分がいないと困るってことは無いんだよ。務めている会社は彩花だけしかいないってわけじゃないんだろう？」
「そうだけど…」
「一生懸命働く彩花にとっては酷な話かもしれないけれど、会社って言うのは誰かがいなくても、何とかうまく回っていけるようになってるんだよ。逆に彩花がいないことで、どれだけ会社の役に立ってもらっていたのか気付かせるチャンスかもしれないし」
「拓也さん‥‥」
彩花の怯えていた瞳に活力が戻ってくるのが分かった。
「とにかく明日は出社しないほうがいい。それに有給だってあるんだろう？」
「うん。1日も使っていないから」
「そうか。なら体調が悪いからと言って、休ませて貰うんだよ」
「うん。分かった」
コクリと素直に頷く彩花。
奴は危険だ。
妻も子供もいるくせに同じ会社の若い女子社員を口説くどころか、アパートまでつけて来るとは…。
これでは完全なストーカーだ。奴から…俺の大切な彩花を絶対に守ってやらなければ。
「彩花、あいつからのメールを俺のメールアドレスに転送してくれるか？」
「え？ど、どうするの？」
「あいつ、間抜けな男だ。彩花の名前を入れてメールを送り付けているんだから。おかげでこっちはそれを利用することが出来る。ほら、これが俺のメールアドレスだ」
スマホから自分のメールアドレスを開いて彩花に見せた。
「う、うん‥‥分かった…」
彩花は自分のスマホに俺の連絡先を入力すると、早速アドレスにメールを送って来た。
「…よし、ちゃんと届いたな。それじゃ、次は俺に彩花の勤めているメールアドレスを教えてくれよ」
「あ…まさか‥‥」
彩花は何かに気付いたかのように俺を見つめた――。
