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第2章 84 訪れた人物

 驚いたことに、ドアアイから見えた人物は他でもない彩花だったのだ。


まさか、まだ夢を見ているのだろうか?俺があまりにも彩花に会いたいと願望を持っていたあまりに……。


ピンポーン


けれど、再び彩花がインターホンを鳴らしたことで我に返った。

違う、これは夢なんかじゃない!

現実だっ!


ドアノブを回すと扉を開けた。


「あ…拓哉さん……」


彩花の顔に安堵の笑みが浮かぶ。


「どうしたんだ?彩花」


平静を装いつつ、俺も彩花に笑みを浮かべた時……。


「へ〜…なんだ…嘘じゃ無かったのか。彼氏がいるって話は」


不意に扉の影から男の声が聞こえた。


「え?」


そして男はふらりと扉の後ろから姿を表し……俺と彩花の間に立った。


「お前が南さんの彼氏なのか?」


その男は、驚くことに椎名だったのだ。


椎名…っ!まさか彩花に着いてきたのか?それとも待ち伏せでもしていたのだろうか?


いや、それよりも今日俺は椎名に顔を見られている。まずいかもしれない…。


「ふ〜ん…。それで南さんとはいつから付き合っているんだ?」


ところが、椎名は俺に気づいていないのか、質問してきた。


「え?」


すると彩花が焦ったように声を掛けてきた。


「半年前からよっ!そうよね?拓也さん!」


彩花俺に目配せしながら、必死になって話を合わせて欲しいとジェスチャーで訴えているのが分かった。


彩花……。

よし、ここは話を合わせよう。


「ああ、そうだよ。俺と彩花は半年前から付き合っているんだ。この通り住んでいるところがすぐ近くだろう?それで俺達は知り合ったんだよ」


「……」


椎名はなにか不機嫌そうにしている。

その時、椎名の指に結婚指輪がはめられていることに気づいた。


よし、これを利用してやろう。


「それよりあんた、結婚しているんじゃないか。」


「えっ?あっ!」


椎名は慌てて腕を後ろに回して隠したが、もう遅い。


「そうか…不倫かよ…ったく、最低な男だな」


「な、何…っ?!」


「とにかく帰れっ!俺は今夜は一緒に彩花とこの部屋で食事することにしてんだよっ!大体彩花は俺の恋人だっ!人の女に何、手を出そうとしてるんだよっ!」


ここぞとばかりに、俺は一度でもいいから言ってみたかった言葉を口にした。


「ぐ……っ!」


椎名は悔しそうに唇を噛むと、まるで逃げるように部屋の前から走り去っていった。


「……全く、なんて男だ。……だいじょうぶか?」


俯いて震えている彩花を覗き込むように尋ねた。


「う、うん……」


頷く彩花の顔色はかなり悪かった。


「……とりあえず、部屋に入ろう」


「うん……お邪魔します…」


彩花は震えながら玄関に入ってきた。


部屋に中は真っ暗だったので、壁のスイッチを押して部屋の電気をつけた途端。


「…っ!」


彩花が俺にしがみついてきた。


「彩花?」


すると…。


「こ、怖かった…」


彩花の小さい体は震えが止まらずにいた――。

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