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第2章 81 妙な自信

 午前10時―


 彩花の勤務先の会社にやってきていた。


「ここが彩花の勤務先か……。初めて来るな」


 彩花が勤めている会社は電車1本で乗換なしで来れる場所だった。この駅は快速電車も停車する場所だから、当然家賃も高い。


ここへ来る途中、駅の近くにある不動産会社の前を通りかかった。

その時物件案内が張り出されていたので、何気なく見ると彩花の支払っている家賃よりも数万円高い物件ばかりだった。


そうか…だから彩花は各駅停車しか止まらない駅に住んでいるのか…と、妙に納得する自分がいた。

会社からは交通費も出るだろうし、節約するには多少不便でも家賃が安い駅に住んだほうがずっといいだろう。




 彩花の勤務先の会社は駅から徒歩5分程の場所にあった。


「だけど…本当に小さな会社なんだな」


改めて目の前にある会社を見上げた。


2階建ての小さなビルは1階が倉庫になっているのか、シャッターが降りている。

恐らく会社は2階にあるのだろう。

外階段から上の階に上がれるようになっていて、窓には社名が書かれている。

ビルはかなり老朽化が進んでいるのか、コンクリート部分にいくつかのひび割れが入っていた。


「彩花は高卒だから薄給って言ってたしな……」


同年代の仲間もいないし、未だに新人扱いなので他の社員の買い物迄頼まれているって言ってたし……こんなブラック会社で彩花は7年も働いてきたのか…。



「今も彩花は仕事以外に雑務を任されているのか…?」


そう言えば、この会社には制服があるのだろうか……等と考えていると、不意に背後から声を掛けられた。


「あの…。我社に何か御用でしょうか?」


「え?」


振り向くと、そこにはジャンバーを羽織った男が立っていた。

恐らく年齢は30代といったところだろうか?


そこで彩花が以前話していたことを思い出した。

勤務先は全員既婚者で一番若い男性社員も子供がいると。


まさか……こいつが椎名か?

以前のタイムトラベル先で不倫の挙げ句、彩花を殺害した……。


「あ、あの……何でしょうか?」


男の顔に戸惑いの表情が浮かんだ。

どうやら俺は無意識のうちに、男を睨みつけていたようだった。


「あ……い、いえ。すみません、少し住所を探していたものですから。どうやら道を間違えていたようです」


「あ……そうですか」


「すみません、失礼します」


あまり、ここにいて顔を覚えられてはまずい。

踵を返すと、俺は逃げるようにその場を後にした。



けれど、俺は奴の……椎名の顔を覚えた。


そして思った。


何だ…俺のほうが背も高いし、顔もいいじゃないか。

しかも年齢だって俺の方が若いのだ。


これなら‥‥あいつに勝てると、妙な自信を持つ自分がいた―。

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