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第2章 78 焦りは禁物

「ごちそうさま〜。あ〜美味かった」


するとそんな俺を見て彩花がクスクスと笑った。


「大げさだね。拓哉さんは」


「いやいや。別に大げさなことなんか言ってないぞ?俺も料理はするけど彩花みたいに上手に作れないからな」


「そっか…。拓哉さんも1人暮らしが長いんだっけ?」


「ああ。彩花と同じ18の頃から1人暮らしだからな。よし、片付けは俺がしよう」


「え?そんなことしなくていいよ。私がやるから」


首を振る彩花。


「だけど、ご馳走になってばかりじゃないか。カレーだって貰ってるし」


何か彩花の役に立ちたかった。


「大丈夫だってば。気にしないでよ」


「ありがとう、彩花」


でもそうなると…。


彩花の部屋の時計を見ると、時刻はもうすぐ20時半になろうとしている。

いつまでも用も無いのに、1人暮らしの女性の部屋に入り浸るわけにはいかない。


恋人同士ならいざ知らず……。


「そっか…。それじゃ、そろそろ帰るよ」


立ち上がりかけた時、彩花が意外な言葉を口にした。


「え?帰っちゃうの?」


「え?」


驚きのあまり思わず彩花を凝視してしまった。


「それって…」


「あ、あのね。違うの、そうじゃなくて…今から食後のコーヒーを淹れようかと思ったんだけど」


彩花は慌てた様子を見せた。


「あ…ああ、そうか。コーヒーか。それじゃ淹れてもらおうかな?」


「うん、準備してくるから待ってて」


彩花は立ち上がると、台所へ向かった。


そう言えば15年前は俺はまだ子供だったから、彩花とコーヒーを飲むなんてことは無かったものな…。


やかんに湯を沸かして、コーヒーの準備をしている彩花はどこか楽しそうだった。

何故なら鼻歌を歌っていたからだ。


俺の感が正しければ多分彩花は寂しがり屋だ。

誰かと同じ時間を共有するのが嬉しいのだろう。だから子供だった俺にも色々親切にしてくれたに違いない。


だけど…今、そんな仕草を見せられたら勘違いしてしまいそうになる。


俺は彩花が好きだ。

今、こうしている間にも告白してしまいたい気持ちに駆られる。


けれど、俺はもう失敗はしたくない。

失敗を積み重ねれば重ねるほどに、自分の心に出来た傷が深くなっていくだけだから。もうこれ以上…傷つきたくは無かった。


そうだ。

焦るのはやめよう。彩花が完全に俺に気があるということを確認出来たら…その時こそ、告白するんだ。



そこまで考えた時…。


「はい、お待たせ」


不意に彩花に声を掛けられ、我に返った。見ると、目の前には湯気の立つコーヒーがマグカップに注がれていた。


「インスタントで恥ずかしいけど」


彩花は少しだけ顔を赤らめた。


「何言ってるんだよ。俺だって自分でコーヒーを淹れるときはインスタントだぞ?よし、それじゃ…早速もらおうかな」


マグカップを手に、息を吹きかけて冷ますと早速口に入れた。


「うん…うまいよ」


「そうだね。美味しいね」


いつの間にか彩花も自分のマグカップを手に、コーヒーを飲んでいる。


俺と彩花はその後もコーヒーを飲みながら他愛もない話をした。


彩花と話をしながら俺は思った。


こんな穏やかな時間がもっと続けばいいのに――と。

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