第2章 74 3人の話し合い
「よぉ、卓也」
「たっくん」
俺に続いて、彩花が卓也に声を掛けた。
「あ‥‥お兄ちゃん。お姉ちゃん!」
卓也が嬉しそうに笑った。
俺たちが会いに来ただけであんなに嬉しそうに笑うなんて‥‥。この頃の俺がどれだけ人の愛情に飢えていたか、その表情を見ただけで良く分かる。
「卓也君。それじゃあ1時間だけよ?」
「はい」
女性職員に声を掛けられた卓也が返事をすると、彼女は部屋から出て行った。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、会いに来てくれて僕…嬉しいよ」
「そうか、俺も会えて嬉しいよ」
何しろお前は15年前の俺だからな。
「私もたっくんに会えて嬉しいわ。ここでの暮らしはどう?あ…と言ってもまだ分からないよね?昨夜来たばかりなんだもの」
彩花が申し訳なさそうにしている。
「ここの先生たちは皆親切にしてくれるよ。僕よりも小さい子供もいるし、高校生もいるんだよ」
「そうなのか。皆とうまくやれそうか?」
俺は分かり切っていることを尋ねた。
この児童養護施設には高校を卒業するまでお世話になったが‥‥そこそこ良い場所だった…と思う。
「うん…多分大丈夫だよ」
「それは良かったわ。」
卓也の言葉に彩花はほっとした表情を浮かべた。
確かにそうだよな。
何しろあのクソ親父と別れて暮らせたのだから。
けれど、胸の中にある喪失感は消えることは無かった。彩花を目の前で無残にも親父に殺されたあの衝撃は今も忘れることは出来ない。
こうして生きている彩花が今、俺の傍にいても…俺の知る彩花は既にこの世にはいないのだから。
「ところで卓也。来週…一緒に遊びに行かないか?彩花と3人でさ」
心の中でずっと彩花と呼んでいたものだから、うっかりそう呼んでしまった。
けれど彩花は何も言わない。
恐らく卓也の前だったからだろう。
「え…?遊びに…?」
「ああ、そうさ。どこだっていいぞ?卓也が行きたい場所で」
「僕が…行きたい場所……?」
卓也は首を捻っている。
多分今まで一度もどこかへ遊びに連れて行って貰ったことが無いからだろう。
すると彩花から意外な提案があった。
「それじゃ、まずは『プレジャーランド』に行ってみない?あそこはね、市が運営している施設だからお手頃価格で遊べるのよ?しかもすごく広くて、東京ドーム3個分の広さがあるんだから」
プレジャーランド…ッ!
何て懐かしい響きなんだろう。
良く彩花が俺を連れて遊びに行った思い出の場所…。
まさか、再びあそこに行けるとは思わなかった。
何しろ、あの『プレジャーランド』は維持費が膨大にかかる割に収益が悪いということで、俺が高校に入学した年に閉園されてしまったのだった。
今はあの跡地は巨大な複合施設になっている。
まさか、再びあの場所に行けるとは思わなかった。
「うん。そこがいいな…決定だ!来週は皆でプレジャーランドへ行こうっ!」
気付けば、恥ずかしくなるくらい1人ではしゃぐ自分がいた――。




