第2章 69 公園で
「ほ、本当ですか?卓也と……会ってくれるんですか?」
つい嬉しさのあまり、顔が緩んでしまった。
「え?え、ええ……」
戸惑いの表情を浮かべながらも頷く彩花。
「きっと、卓也の奴喜びますよ。南さんのこと、気に入ってましたから。優しくて素敵なお姉さんだって話していましたよ?」
本当は卓也はそんなこと、一言だって言ってなかった。
だが、俺には分かる。
卓也が彩花を気に入っているということくらい。何しろ、卓也と俺は同一人物なのだ。子供の頃から彩花は俺にとって、憧れの存在だったのだから。
「そ、そうなんですか?たっくん…‥そんなことを言っていたのですか?」
「ええ、そうですよ」
「嬉しいけど、何だか照れますね……」
彩花は頬を赤く染めながら笑みを浮かべた。
「それじゃ、いつ…卓也に…」
口にしかけた時、彩花が不意に声を掛けてきた。
「あ、公園に着きましたよ」
斜め右前方に小さな公園が見えて来た。
公園にはブランコ2台と滑り台に砂場があるだけの小さな公園で、ベンチが3台設置されている。
公園には3人の小さな子供たちが遊びに来ており、砂場で遊んでいる。
その様子を近くのベンチに腰掛けて見つめているのは、やはり3人の母親達だった。
「上条さん、あのベンチに座りませんか?」
彩花が木の下に設置されたベンチを指さした。
「ええ、そうしましょう。あ、その前に自販機で何か飲み物を買いましょう」
公園の入り口付近に自販機が設置されている。
ええ、いいですね。では買いましょう」
互いに2人でお金を出しあって、自販機で缶コーヒーを買った。
本当は彩花の分も支払いをしようかと思ったが、自分の分は自分で買うからと言ってやんわり断られてしまった。
「はい、どうぞ」
ベンチに座ると彩花が紙袋から、パイの焼き菓子を差し出してきた。
「どうもありがとうございます」
お礼を述べて受け取ると、彩花が笑った。
「フフフ…」
「え?何がおかしいんです?」
「あ……い、いえ。ケーキをくれたのは上条さんなのに、私がどうぞと言って上条さんがお礼を述べたのが何だかおかしくて……」
「確かに……言われて見ればそうかもしれませんけど。でも、まぁいいじゃないですか。それより早速食べてみませんか?」
「ええ、そうですね」
早速、2人でケーキを食べることにした。
「「いただきます」」
早速パイ菓子を口に入れた。途端に甘いパイの味が口の中に広がる。
「…美味しい…!」
彩花が嬉しそうに俺を見た。
「ええ。本当に美味しいですね」
頷き、砂場で親子連れで遊んでいる様子を眺めていると彩花がポツリと言った。
「‥‥あの親子…幸せそうですね」
「ええ」
「たっくん……可愛そう…」
「南さん…」
彩花を見ると、缶コーヒーを握りしめていた。
「私…たっくんを見た時‥‥子供時代の自分と重なってしまったんです…私も…同じだったから…」
彩花はまだほとんど面識の無い俺に自分のことを語り始めた。
「私の場合は…母の交際相手から虐待を受けていて…それで自分で児童相談所に通報して逃げることが出来たんです…。だからたっくんが他人事とは思えなくて」
「俺も同じですよ」
「え?」
驚いたように彩花が顔を上げた。
「俺も子供の頃、父親から酷い虐待を受けていました。でもある日、親切な女性が俺の前に現れて…他人の俺をすごく可愛がっていくれたんですよ。その女性のお陰です。今の俺がいるのは」
そして俺は目の前にいる彩花をじっと見つめた――。




