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第2章 64 期待外れ

 アパート近くに着いた頃には19時半を過ぎていた。


「参ったな…連絡先位聞いておけばよかった」


彩花の暮らすアパートの扉を見つめ、ため息をついた。

恐らく卓也がどうなったのか心配しているだろう。連絡先が分かればスマホで知らせてあげることが出来るのに、電話番号どころかメールアドレスすら知らない。


「こんな時間に行ったら迷惑かな…食事時間かもしれないし‥‥。いや、すぐ用件だけ伝えて帰ればいいんだ。行こう!」


こんな住宅街の街灯の下で突っ立ってアパートを見つめている方が余程不審者に見える。

そして俺はアパートへ向かった―。




「勢いで来てしまったが…大丈夫だっただろうか‥‥?」


胸に不安を抱えつつ、ついに彩花の部屋の前に来てしまった。


「ス~」


大きく深呼吸すると、インターホンを押した。


ピンポーン


すると、ややあって…。


ガチャ…


部屋の扉が開かれ、防犯予防かチェーン越しに彩花が顔をのぞかせた。


「こんばんは南さん」


笑顔で彩花を見つめる。


「あ…上条さん。戻られたんですね」


「ええ、それですぐ南さんを訊ねました。とりあえず卓也は今日から児童相談所で面倒を見てもらえることになりましたよ」


「そうだったのですね…それは良かったです」


安堵したかのように彩花がため息をついた。

その時、部屋の中からカレーの匂いが漂ってきた。


「あ……ひょっとして食事中でしたか?」


「え?ええ。そうです」


やはりまずい時に来てしまった。


「すみません。用件はそれだけです、それじゃ俺帰りますね」


頭を下げて、玄関から出ようとした時…。


「待って下さい、上条さん。ひょっとして、夜ご飯まだですか?」


「ええ、まだですけど…」


まさか…彩花…俺に食事を…?


俺は期待に胸を膨らませながら次の言葉を待った。


「なら、カレー食べませんか?今タッパに用意するので」


彩花は笑みを浮かべて尋ねて来た―。




****


「ハハハハ…やっぱりそうだよな…」


レジ袋を手に外階段を降りながらため息をついた。袋の中には彩花の手作りカレーがタッパに入っている。


「考えて見ればそうだよな~…」


階段を降りきり、夜空を見上げた。

てっきり部屋でカレーをご馳走してもらえると期待したが、彩花は俺に手作りカレーを手渡してきた。


おまけに、なら洗って明日返しますと伝えたのに、返却しなくていいですからとやんわり断られてしまったし…。


「やっぱり脈なしか…。俺じゃ駄目なのかな…それとも、ひょっとして好きな男でもいるんじゃ‥‥」


そこで嫌な予感が頭をよぎる。


まさか…また椎名の奴と付き合っているんじゃ…?



「決めた。やっぱり…このタッパを返そう。そして話をするきっかけを考えるんだ」


俺は急ぎ足で自分の部屋へ向かった――。

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