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第2章 63 事情徴収

「いいですか?南さん。絶対に何があってもこの部屋から出ないで下さい。お願いします。俺は…どうしても貴女を守りたいんです」


扉を閉めるとき、小声で彩花に語りかけた。


「か、上条さん‥…。わ、分かりました…」


「絶対ですからね」


「はい」


扉が静かにしまり、鍵がガチャリと掛けられる音が聞こえた。


「よし、行くか。卓也」


卓也の手をしっかり握りしめた。


「うん」


頷く拓也を連れて隣の部屋の前に移動すると、俺は扉を開けた。



ガチャ…


扉を開けて、部屋の中に入ると親父の姿が消えている。


「いないのか…?」


靴を脱いで玄関にあがり、奥の畳の部屋へ移動しようとした時…。


「お兄ちゃんっ!!後ろっ!」


卓也の悲鳴が聞こえた。


「何っ?!」


振り向くと、背後からビール瓶を振りかざした親父の姿が目に飛び込んできた


ビュッ!!


卓也のお陰ですんでのところで振り下ろされたビール瓶を交わした。


「うわっ!」


俺と言う対象物を見失った親父はそのまま前のめりに激しく床に倒れこんだ。


今だっ!!


親父の背中に乗ると、思い切り腕をねじ上げた。


「ギャアアアッ!!痛い痛い痛いっ!!」


痛みのあまりあ、親父が離したビール瓶が床に転がる。卓也は転がったビール瓶を拾い上げるとすぐに台所へ運んで行った。


「痛いっ!は、離せっ!!」


「いいや、離すものかっ!お前…殺人犯になるつもりかっ?!ビール瓶なんかで殴られたら下手したら死ぬぞっ?!」


「畜生っ!そんなの知るかよっ!!離せってんだろうっ!!」


「ふざけるなっ!!貴様のような極悪人を野放しに出来るはずないだろうっ?!」


そして親父を取り押さえたまま、上着のポケットに手を突っ込むとスマホを取り出し番号をタップした。


「お前のような奴は警察に突き出してやるよ」


スマホを耳に押し当てたまま、足元で無様に暴れる親父に言い放ってやった―。




****


 あれからすぐ4人の警察官がパトカーに乗ってかけつけてきた。


親父は警察に連行され、俺と卓也も警察署へ行くことになった。

そこで色々と事情徴収を受け…解放された頃には19時を過ぎていた。



「それでは上野卓也君は児童相談所の職員が来るまでは預かります」


警察署を出るとき、警察官が俺に声を掛けてきた。隣りでは卓也が不安げな様子で俺を見上げている。


「ではどうぞよろしくお願い致します」


頭を下げると卓也が声を掛けてきた。


「お兄ちゃん…」


「大丈夫だ、卓也。児童相談所に入っても…会いに行くから。それまで元気でいろよ?」


頭を撫でてやった。


「うん…約束だよ?」


「ああ、約束だ」


どうやら子供時代の卓也はすっかり俺を信頼しているようだった。


「それでは上条さん。また何かありましたらこちらから連絡を入れさせて頂きます」


「はい、分かりました。失礼します」


頭を下げると、俺は1人で警察署を後にした。




「ふぅ…」


警察署を出て夜空を見上げた。


ひとまずこれで大丈夫だろう。親父は捕まり、卓也は児童相談所で預かって貰えることになった。

彩花とも知り合えたし…。



「よし、彩花に報告する為にも…帰るか」



俺は軽い足取りで彩花の住むアパートを目指した。


今度こそ…彩花と親しくなれそうな気がする。

ひょっとすると恋人同士になれる日も近いかもしれない。



俺は浮かれていた。


だから…一番肝心なことを見落としていた。


その事に気付くのは、もう少し先のことになる――。

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