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第1章 12 たっくんにあげる

 たっくんの住む部屋はやはり真っ暗で、人のいる気配が無かった。


「…お父さん、やっぱりまだ帰っていないみたいだね?」


「…うん…」


たっくんは俯きながら返事をした。


「大丈夫、もし万一…今夜お父さんが帰ってこなかったとしても、ここに泊まればいいから、心配しなくて大丈夫だよ?」


言いながら私は部屋の鍵を開けて、扉を開いた。


「え…?本当に…いいの…?」


たっくんが目を見開いて私を見た。


「うん、勿論だよ。お姉ちゃんは一人暮らしだからね。正直言うと、誰かと一緒にご飯食べたかったから。さ、入って?」


笑顔でたっくんに言った。


「う、うん…ありがとう…」


たっくんは遠慮がちに言うと、きちんと靴を脱いで揃えて部屋の中に入ってきた。


「それじゃ、手を洗っておいで?すぐご飯の支度するからね?」


「うん」


たっくんが洗面台に向かう姿を見届けながら、上着を脱いでエプロンをしめるとすぐに袖まくりして食事の準備を始めた―。




****


「さぁ、食べて」


小さなテーブルにたっくんと向かい合わせに座ると、私は声を掛けた。


「う、うん…」


2人の前には私の作った料理が並べられている。


ご飯に、豆腐とわかめのお味噌汁、ほうれん草の胡麻和えに作り置きしておいたサバ缶で作ったハンバーグ、それに茹でたブロッコリー。


「ごめんね?おかず…少し足りないかもしれないけど…」


申し訳無さげに言うと、たっくんは首を振った。


「ううん!そんな事無い!僕…こんなに美味しそうな料理見るの、本当に久しぶりだよ」


「え?」


そんな…たったこれだけなのに?


「いつもなら学校の給食を食べられるんだけど…今は春休み中だから…それでもお母さんが一緒に暮らしていた時は…オムレツとか、ハンバーグを食べていた気がする…」


たっくんが寂しそうに言う。


「たっくん…」


ひょっとすると、たっくんはお母さんを早くに亡くしたか…もしくは父親があんな風だから、彼を置いて出ていったのかもしれない。本当は詳しく話をきいてみたかったけれども、それを10歳の子供に聞くのはあまりにも酷な気がして…とても聞き出すことが出来なかった。

代わりに笑顔で私は言った。


「さ、それじゃ…冷めない内に食べようか?いただきます」


「うん、いただきます」


そして、私とたっくんのささやかな食事が始まった。



 食事の最中、たっくんは「美味しい」を連発していた。笑顔で食事をしている姿を見ていると、私の心がほっこり温まって来る感じがして…私自身も幸せを感じていた。


誰かに手作りの料理を褒められるのって…こんなに幸せな気持ちになれるのだ―と。



****


 食事の後片付けをしていると、たっくんが遠慮がちに尋ねてきた。


「お姉ちゃん…」


「何?たっくん」


「う、うん。僕ね…毎日日記をつけているんだ」


「本当?偉いじゃない」


筆不精の私にはとても無理な話だ。


「うん。それで…今日の分も書きたいんだ。だから…いらない紙があったら…貰いたいんだけど…後、書くものも借りたい…」


たっくんは恥ずかしそうに言う。


「あ、そうだよね。ちょっと待ってて」


食器を洗う手をとめると、部屋に移動して、収納棚として使用しているカラーボックスから一冊の未使用の大学ノートを探し出した。


「はい、たっくん。このノートあげる」


「えっ?!いいの?ノート貰っても…」


「うん、いいよ。どうせ使っていないし…たっくんに使ってもらえると嬉しいな」


するとたっくんは笑みを浮かべ、ノートを胸に抱きしめると言った。


「ありがとう、お姉ちゃん。僕…今日からこのノートを日記帳に使うよ」


「うん。是非使って?」


そして私とたっくんは微笑みあった―。



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