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第2章 44 心が壊れる前に

「あ、彩花が…し、死んだ…?」


その場に立っているのがやっとだった。全身からは血の気が引き、酷く耳鳴りがする。


「ちょっと…大丈夫?あんた、顔色が真っ青だよ…?」


彩花の母が声を掛けてくるが、とてもではないが冷静ではいられなかった。


「そんな…彩花が死ぬなんて…そんなはずは…」


顔を抑えてうわ言のように呟きが漏れる。彩花は…今回、一体どんな死に方をしたんだ…?


「兄さん?本当に大丈夫なのかい?」



待てよ?彩花の母は…彼女が死んだって言ってるよな?


「死んだ…?死んだってことは…」


ひょっとして…彩花は…誰かに殺されたわけではないのか?

いや、そもそも殺されていればネットの記事に書かれているはずだ。


「すみませんっ!」


「わっ!びっくりした!」


勢いよく顔を上げると、母親は驚きのあまりか後ずさった。


「彩花さんは死んだって言いましたよね?一体…何故亡くなってしまったのですか…?」


身体の震えを押し殺して尋ねた。


「それが…心不全だってさ」


「え?」


あまりにも思いがけない言葉を聞いたので、一瞬思考が停止してしまった。


「あ、あの…もう一度…教えて頂けますか…?」


「何だい?聞き取れなかったのかい?仕方ない人だね…。いいかい、よくお聞き。あの娘は…心不全で死んだそうだよ」


「そ、そんな…!」


あり得ない。彩花は健康そのものだった。

それに第一、病死なんて…今まで一度も無かったはずだ。


常に彩花は6月9日に殺されてきたはず…。


「それで、警察から彩花には何か持病が無かったか確認するように言われてアパートにやって来たんだけどね‥‥。保険証の場所すら調べられなかったんだよ…。本当に私は母親失格だよ。たった1人きりの娘だったのに男に眼が眩んで、あの娘を手放すなんてさ…。その気になればいつでも連絡くらいとることが出来たはずなのに…それを怠ってきたのだから…結局、こんなことになってしまって…」


母親は最後の方は涙声になっていた。


「…」


俺はそんな彩花の母親を黙って見ていた。


彩花を失ったことが信じられず…何故今回もまた彩花が死んでしまったのか、理解が追い付かなかった。


「…こ、この度は…ご愁傷様…でした…」


それだけ告げるのが精一杯だった。


「ありがとう…」


母親の返事を聞くと、頭を下げて俺はアパートを後にした。


…もう、いつまでも彩花を失ってしまった世界にとどまるのは無意味だった。


今は一刻も早く元の世界に戻って…次の手立てを考えなければ。


俺の心が、何度も繰り返される彩花の「死」によって壊れる前に―。



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