5話 神様のお願い
「神様だと?」
「その通りよ」
何を言っているのだろうか。ボケだろうか。だが目の前の神と名乗る、女性でもない、なんて呼べばいいのだ?まあいい、とりあえずその神様(仮)が冗談を言っているようには見えない。電波系か?
「あなた、だいぶ失礼ね。何が(仮)とか、電波系よ。もう少し敬ってもいいんじゃない?現に心だって読めてるじゃない」
「いや、心を読める知人がいるんだよな。なんか他の証明方法を求む」
いきなり神様だとか言われても困惑する以外どうしろと言うのだ。それ相応の事をしてもらわないと神様だとは言えないだろう。
「本当に失礼極まりない……。でも、良いわ。これならどうかしら」
その神様(仮)は言い終えると指を鳴らす。何が起こるのかと待っている俺に異変が起きた。腕が溶け始めたのだ。あまりにも突然の事に俺は目を見開く。だがその融解が止まることはなく、より加速していく。
「おいおい、どういうことd───」
そしてそのまま、俺は一瞬で液体になった。脳、骨、肉、内臓、すべてがドロドロに溶け、一つに混ざる。透き通った水面の上に、濁った俺という名の液体が広がっていく。だが、そんな状況の中でも意識が失われないのが余計に気持ち悪い。声を発することができずにそのまま時が過ぎていく。この状況はいったい何なのだろうか。
そして、また異変が起き始める。今度は体が気体になり始めたのだ。だんだんと蒸発していき、上空に上っていく感覚と、未だ地面にとどまる液体の感覚が入り混じり、不可思議な感覚に襲われる。やがてすべてが蒸発し終えると、俺は雲になり、水面に雪を降らせた。その雪が徐々に降り積もり、再び俺を形作った。
「……なんなんだ今のは……」
元の状態に戻ってから数秒後、先ほどの現象を振り返る。
俺の体はどうなっていた?どれくらいの時間がたった?溶けたならなぜ意識があった?蒸発して、脳がなくなってもなぜ感覚があった?そもそも、それを客観的に冷静にとらえられたのはなぜだ?主観ではなく第三者視点で俺がもとに戻るまでの過程を見ていた気がするのはなぜだ?
何が理解できないのかさえも分からない。いったい何がどうなって───。
「理解できないでしょう?それが神という存在なの。あなたたちとは違う次元にいるのよ。漫画の登場人物たちが、作者とか編集者とかの存在を理解できない事と一緒。理解できないと理解しなさい」
いつもなら、何を意味の分からないことを言っているのだと、俺はこの神に対して思っていただろう。だが、この時は自分でも分からないくらいに言葉がすんなりと入ってきた。
「なるほど、な。そうか、神様か。……それで、その神様が俺に何の用だ?」
俺は熱心な信仰者ではない、無神論者だ。そんな俺に対して何をするというのだろうか。
「あなたにはお願いがあるの」
「はあ」
「あなたたちの言葉でいうと、異世界転生してほしいの!」
なんというか、テンプレすぎるお願いだった。
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