2話 トラックVS俺
めちゃくちゃ直接的な描写があるわけではないですが、人が死にます。
「まじかよ!?」
目の前の女子高生がふらつき、そのまま道路側に倒れる。赤く点灯する歩行者信号は、未だ青色に変わる気配はない。俺はとっさに飛び出した。周囲を見渡すことができる時間があったわけではないので分からないが、確実に車のエンジン音が近づくのが分かる。他の連中はスマホに夢中で俺よりも断然気づくのが遅かったはずだ。飛び出したが最後、俺がケガするのはもちろん下手したら死ぬだろう。だが、少なくともこの若者の命だけは救わなければならない。
『マスター!?』
脳内に相棒の声が響き渡るが、今ばかりは相手していられない。恐ろしいほどに俺の考えが読めるのだ。俺が今何を求めているのかぐらい分かるだろう。その求めているものにすぐさま対応できるよう、俺は準備しなければならない。
倒れて動かない少女のもとに滑り込み、体を抱きかかえる。出血等があるわけではない。立ち眩みやそのたぐいだ。安心するのもつかの間、先ほどよりエンジン音が大きく聞こえ、車がより一層近づいているのが分かった。そして、俺は気づいてしまう。この音は、大型トラックのエンジン音だと。
「あーあ、短い人生だったな」
そんな諦めのような言葉が漏れる。だが、こんな状況の中俺は笑っていた。この瞬間、俺の死は確定したが、この少女が助かることもまた確定したのだ。俺が死を理解したと同時に、視界に様々な数字と文字と記号とが展開される。その中で、大きな矢印がひと際点滅し存在感を放っていた。
「さっすが、俺の相棒」
俺はにやりと笑いながらつぶやくと同時に、その少女を矢印の方向に押し飛ばした。作用反作用の法則により、彼女の体はそのまま前方に、俺の体はそのまま後ろへ傾く。彼女が俺に押し出され,そのまま歩道側に飛んでいくのを確認しつつ、視線を横に向ける。眼前に迫る、真っ白なフロントパネル。これが全身を強く打って死ぬってことか。
「すまん」
それが最後の言葉だった。その後、一瞬の浮遊感と激痛が全身を走り、意識が強制的に掻き消される。直前、五感が感じ取ったものは、怪我もなさそうに立ち上がる女子高生の姿と、身を焼くような熱さ、今更ながらの甲高いブレーキ音、そして、ワイヤレスのイヤフォンから聞こえる、相棒の声だった。
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