俺の実力を見せてやる!
「行けるか?〝グラディエーター・カスタム“」
今日のレースに向けて勢いをつけるためにそう声をかけたちょうどその時だった。
「次から次へと...キリがないですわ...!」
「ん...?」
コックピットに座った時、明らかに無線からそう聞こえた。
この辺りは〝ドール“乗りが多いから襲われる奴も少なくない。
無線が入った時に見えるウィンドウはカメラが撮っている映像なのだが、やはり顔がバレるのを嫌って手元のみを映しているな。
...というかなんだこのあからさまなお嬢様口調は。
距離的にもノイズが少ないところから考えてそう遠くはない。
ウィンドウに書いてあった番号を拾って無線に入力、つながったようだ。
「増援に行くか...!」
急いで機体のシステムを立ち上げる。
「全スラスター制御オン。
ジェネレーター出力リミッター解除。
イグニス回路、起動。
無線感度最高。
各部動作問題なし。」
システムが立ち上がり、モニターが無い足元を除く全ての方向に製造元のロゴ...〝フォルテ“というマークがコックピットに映し出され、次いで周りの景色が映る。
システムが立ち上がった所で機体を起き上がらせ、目の前にある広い道路に出る。
「視界良好、進路クリア。発進する!」
誰に言うわけでもないがそう確認し、フットペダルを床まで踏み込み機体が地面を蹴る反作用と掛け合わせてブースターが推進用イグニスの奔流を吹き出し、3秒ほどで1000km/hまで加速する。
「援軍、いるか?」
「...!感謝いたします!」
「聞いただけなんだが」
「数が多くてどうしようもなかったんですの!」
「ああ、もう...はい。」
高度計が300mを指したところで島外の海上に白い機影を確認。同時にフットペダルの踏みを緩めて降下していく。
見たことない機影...専用機か。
それに群がる機体は5機ほど。
そこまで多くないが...あの白い機体、慌てているな。
戦闘中にパニックになって敵の数が分からなくなるのは初心者によくある話だ。
「敵は5機だ。落ち着いていこうぜ」
「まさか!もっと多いですわ!」
「上から見て確認した!とやかく言わないで落ち着いて対処しろ!」
「っ!わ、わかりましたわ...」
しかし専用機のくせに、量産機のたった5機に手こずるのか?
あまりにも火力が無いというか...処理が遅い。
「アッチの新手は...カスタム機か。
手練れに違いない。警戒しろ」
敵の無線は暗号化が甘いのか俺にダダ漏れ。
しかしカスタム機なのを一瞬で見破る1機は手練れ確定だ。
「いいか?俺が突っ込んで何機か巻き添えにするからその隙に逃げろ。」
「助けて下さる方を置いて逃げるなど...!」
「俺は死なないさ。信じろって」
ー有無は言わさないけどな!ー
白い機体を確認してから弱めていたフットペダルを、高度が100mを切ったところで再び最大までグッと踏み込む。
背部に設置した後付けの高出力ブースターユニットと腰のサイドスカートの裏、肩部に取り付けられた純正のブーストユニットが推進用のイグニスを吐き出し、急激な加速度で体をシートに縛りながら海面スレスレを舐めるように、衝撃波で波を描きながら紺と白の流線型が駆ける。
ー時速1200...1300...1400...今だ!ー
背中からマシンガン〝ブローニング“を取り出し発射していく。
毎分300発を誇る発射レートと55.6mm弾丸の高初速が相まって回避が難しい弾幕で、半数近くの2機の装甲が吹っ飛んでフレームが剥き出しになる。
海面に没していったのを確認。
これであの2機は動けない。
「接近しながらの射撃で2機...!?しかもあの機体...!」
「残り3機...そこの白い機体の子!指折って数えとけよ?相手に何回武器を振らせたか、な!」
「ええ、勿論ですわ!」
『ビビるんじゃねぇ!弾幕張って近づけさせんな!』
さっきも命令を下していたリーダーと思しき声を合図に、生き残った3機が弾幕を張ろうとし始めた。
が、射撃がヘタクソなくせに威力が高く発射レートの低いイグニス式ライフルを持ってきていたらしく、正直言ってこれでは俺の戦いを飾る演出にしかならない。
「高く買いすぎたかな...えせベテラン君。」
ブースターを一瞬だけ緊急最大出力で噴射し、最大限まで乗せた速度でイグニス式ブレード〝サエッタ“を薙ぐ。
移動しながら約300°の範囲を真横に切り裂いた〝サエッタ“は、見事に2機の胴体を真横に切り裂いていた。
残りの1機は銃を捨ててイグニス式ブレードで受けたようだ。
コイツがリーダーと見て間違い無いだろう。
「一機残っています!」
「把握してる!」
一撃を加えようと斬りかかるが同じように防がれ、ブレードが火花を散らすのを気にも留めず距離を取る。
ここでマシンガンを出すのは無粋...ブレードで決着をつける!
「はぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
ザワ、と全身の肌が音を立てて粟立つ。
喰われる。
その感覚を乾き切った口の中で味わいながら、コックピットの中で白い機体を襲った事を後悔するほどの恐怖に怯えたリーダーと思しきパイロットも必死の抵抗で倒されまいとする!
『化け物め‼︎‼︎』
縦に斬りかかろうとするその太刀筋を捉え、その更に内側に回り込む。
比較的小柄な体躯を生かしてブレードを回避し、真正面から装甲に対してブレードを突き立てる!
機体から力がガクンと抜けるのを感じたまま、ブレードを引き抜く。
ブレードの刃についた相手の機械油が蒸発していくのが、祝福するように勝った実感を俺にもたらしてくれた。
「カッコよかったですわ!見事な戦闘技術です!」
「相手が固まったまま動かないで武器を持ち替えようとしたからだ。
...安心しろ。コックピットは機体の中で最強の防御力で守られてる。そうそう死なないさ」
「...」
思い出したかのように白い機体の方に向き直る。
「君、名前は?」
「私はエトワール・フォルテ。この子はお父様から預かりましたの。名前は〝ノーブル・ホワイト“と言いますわ。」
「その名前、俺の機体に装備されてるパーツの...」
「そうですわ!それが今とても嬉しいんですの!」
「は、はぁ...」
「我がお父様の会社が作ったパーツをあそこまでうまく使いこなして頂けるなんて、さっきの戦いぶりを見たらお父様も喜びますわ...!
とても格好よかったです!」
「お褒めに預かり光栄です...?」
どうやら回避できない質問が地雷だったらしい...熱の入り方が物凄かった。
「あの、今日のレースでは相手同士なんですよね?」
フィオナが言うには今日のレースに参加するはずだ。
こんなに親しくして大丈夫だろうか?
「敬語でなくてもいいんですのよ?
...まあ、たしかに今日のレースでは戦いますけども...同盟を組みませんか?」
「同盟?」
「私が優勝すれば賞金は山分け、いえ...全てお渡しします。」
「全部⁉︎」
「私はそれ以上に持っていますもの。
それでしたら、賞金は私を救ってくださった貴方に有効活用して欲しいんですの。」
「ちょっと待ってください!」
ハルの声だ。〝シュトルム・カッツェ“の姿もある。
しかし聞こえてくる様子だと息が切れている...?余程急いできたみたいだ。
「同盟なら私も入れてください。
報酬が欲しいとは言いません。
武蔵君と一緒に戦うんですよね?
裏切らないように信用するために私も入れてください」
「いくら初対面だからって言い過ぎだ、ハル」
確かに疑うのもわかるが、嘘を言っているようには見えない。
確かにハルからすれば嘘に聞こえるかもしれないが俺は信じるつもりなんだ。
「...私が言っていることが信用ならない、と?」
これには少しエトワールさんも怒っているようだ。
が、少し様子が変わった。
「なんですの?専用の通信回路...これですわね?」
そこから先は聞こえなかった。
どうやら対象に選んだ機体にのみ通信できる回線を開くスイッチを入れたらしい。
実際どの機体にも標準装備されているが、こうなるとどんな無線も入り込めない。
二人は今回、1分経たないうちに専用回路から戻ってきた。
「そういうことでしたら...仕方がないですわね。いくら先客だからって譲る気はございませんよ?」
「何を貰った気になっているんですか?主導権は譲りませんよ?
...まあ、妨害は無粋ですので邪魔はしませんが。」
「お互いに頑張りましょうとしかいえませんわね!」
「負けませんよ〜!」
どうやら話は纏まったらしい。
しかしあの短時間でここまで距離が縮まるとは...何があった?
「レース会場にチェックインはあと30分ですね」
「まあ!それは急ぎませんと!補給し直しもありますし...」
「なあ、何話したんだ?どうやったらそんなに距離が縮まんだよ」
二人は打ち合わせたかのようにピッタリのタイミングで、揃えてこう言ってきた。
「秘密です」
「秘密ですわ!」