六
YUKIが去ったあと、紀子はしばらく放心状態だった。すぐに浅野がやってきて、京子と里子に応急処置をすると、瑞希と共に病院に送り出した。
「結果として悪くは無かったと思わない?」
可奈は床に転がり落ちていた拳銃を拾い上げると自分の上着に戻した。
「最初から起きる気なんて無かったんじゃないのか」
涼子が服についている埃をはらっている。
「最小限の犠牲と言うところかな」
浅野は汚れた眼鏡を拭きながら、自分もYUKIに会いたかったとぼやいていた。
「ほら、お母さんに連絡しないと」
「うるさいわね、判っているわよ」
可奈は涼子の冷やかしにふくれながらも携帯端末を取り出した。
「田澤です。任務完了しました。YUKIですか、ええ、よろしく伝えてくれと」
紀子はその光景に少し安心しすると、再び端末を操作してYUKIの状態を確認しようとしたが、そこには「Please DO NOT Strat.」という一文だけが表示されていた。
紀子はそれを見て笑った。久しぶりに大声で笑った。
3人の特S級ハッカーは紀子をみて不思議そうな顔をしていた。
「大丈夫?」
可奈が心配して声を掛けてきた。
「大丈夫です」
紀子は笑いながらも端末の横にある拳銃に気づいて、それを持ち上げた。小さいながらも重量感のある鉄の塊は、紀子の気分をさらにハイにさせた。
瑞希の判断が日本を救ったのかだろうか。いやYUKIは自らの意思でそれを選択したに過ぎない。瑞希の選択は儀式でしかなかったのだ。
紀子はやっと気づいた。それがYUKIなんだ。思考する計算機、意思をもつオリジナルメインフレーム。すでに彼女は完成されてる。それを知っているからこそ、あえて自らを眠りの中に導いているに違いない。そうだ彼女はすでに――。
「もう少し彼女を眠らせて置いてあげよう」
紀子は安全装置をはずすとYUKIの端末に向けて引き金を引いた。