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二
次の日、山田は可奈を見つけると眠り姫に会いたいと告げた。超S級のハッカーはメインフレームの所在を知っている。噂ではあるのだが、それでも山田はその噂にかけてみた。
「なによそれ」
可奈の後ろで落ち着かない様子の紀子を見たとき、噂ではないことを確信した。
「仮に私がそれを知っていたとして、どうしてあなたにそれを教えなければならないの」
もっともな話である。理屈では分かっているけれど山田はあきらめなかった。技術者としては当然の欲求だ、それは「夢」なのだ。山田は熱意を込めて可奈に訴えた。
「知る権利の無いあなたがそれを知ったらどうなると思う」
山田には少し難しい話だった。少し考えてからその意味を理解した。メインフレームの所在は最高機密である。それを知り得たものは常に死と隣り合わせになると聞いた。生まれたばかりの娘を持つ父親としては、選択肢はひとつしかなかった。
「彼女は目覚めるんですか」
可奈は少しばかり意表を突かれた顔をした。しかしやがて寂しそうな表情になり小さくため息をつくと山田のほうを向いてつぶやいた。
「まだ早いと私は思っているけどね」