恐竜的進化
耀子さんが引用している格言は、エルヴィン・ロンメルが言ったとされるものです。この年代ではまだ存在していないはずです。
1924年のシュナイダートロフィーレースでお披露目されたテイジンC系エンジンは、アルミ製のシリンダーとクランクケースを持ち、空冷星型エンジンとしては傑出した前面投影面積当たりの出力を誇っていた。当然、この高性能に日本航空技術廠は即座に食いつき、このエンジンを搭載した新型戦闘機と爆撃機を企画。この2機種のうち爆撃機の方の開発を"雪鷺"で実績のあったテイジンに委託した。
「低翼単葉双胴双発というコンセプトはそのままで行きます。機体のフォルムもできる限り変えませんが、材料を全面的に見直しさせてください」
「耀子さん、それ、開発難易度に配慮しているように見えて、結局めんどくさい奴では?」
「……汗は血を救う。血は命を救う。頭脳は両方を救うと言います。頑張りましょう。私も手伝いますから」
この機体の設計で重視されたのは抗堪性である。具体的には、耐火性がほとんど配慮されていなかった雪鷺を材料面から見直し、GFRPの母材樹脂をPA66から難燃剤を処方したエポキシ樹脂もしくはフェノール樹脂に変更した。また、燃料タンクを20mmのニトリルゴム(史実では1931年にドイツで開発される耐油ゴム)で被覆することにより、被弾時の炎上リスクを低減している。
帝国人造繊維 NA22B 一試爆撃機"白鷺"1型
機体構造:低翼単葉、双胴、固定脚
胴体:エポキシ樹脂系GFRPセミモノコック
翼:ウイングレット付きテーパー翼、エポキシ樹脂系GFRPセミモノコック
フラップ:鷹司=奈良原フラップ(ファウラーフラップ)
乗員:3
全長:11 m
翼幅:15.6 m
乾燥重量:3400 kg
全備重量:6000 kg
動力:帝国人造繊維 "C222B" ターンフロー式強制掃気2ストローク空冷星型複列18気筒 ×2
離昇出力:950hp
公称出力:850hp
最大速度:410 km/h
航続距離:1000 km
実用上昇限度: 8000 m
武装:八年式航空機銃×2(旋回)
爆装:1600kg
さて、一気にエンジン出力が倍になり、機体の速度が高まると、今度は対空火器の性能が不足してくる。ある日、白鷺の生産試作機が牽引する吹き流しへの対空射撃訓練が実施されたが、そこでとうとう懸念されていた問題が発生してしまった。
「あたらんな」
「あたりませんね」
訓練を見学している井上幾太郎少将と山内四郎少将は厳しい顔をする。白鷺の速度が高すぎて、一向に対空砲が命中する気配がないのだ。
「長射程の機関銃があれば、あんなに苦労することはないんだが……イギリスでは2ポンド砲を対空射撃に使っていたな。あれはどうなんだ?」
「射程はともかく、初速が遅いうえに壊れやすくて使い物にならないと聞いていますが」
「なら高初速な機関砲があれば良いということだな?せっかくだしイギリスにも声をかけて、高性能機にも対応できる長射程大初速機関砲を開発しよう」
「大初速機関砲……陸軍も興味を示しそうですね。予算をくれないか声をかけてみましょうか」
日本は2ポンド砲で40mm級機関砲の開発実績があるイギリスと協力し、八年式航空機銃の拡大版を作ることにした。設計試作中に大重量による取り回しの悪さが指摘されたため、小口径化した25mm級機関砲も併せて開発された。
九二式対空機関砲
口径:40mm
重量:3t
砲身長:2400mm(60口径)
砲口初速:850m/s
発射速度:300発/分
装甲貫通力
破甲榴弾:62mm/90°@100m、51mm/90°@500m
九一式徹甲弾:77mm/90°@100m、58mm/90°@500m
備考:ガスト式
派生
九四式機関砲:ガスト式ではなく、一般的な単砲身の機関砲に改設計した物。発射速度100発/分
九四式対空機関銃
口径:25mm
重量:2t
砲身長:1500mm(60口径)
砲口初速:850m/s
発射速度:720発/分
装甲貫通力
破甲榴弾:40mm/90°@100m、25mm/90°@500m
備考:ガスト式、この世界の日本では40mm未満の火器を「銃」としている(史実海軍基準)
傑作対空機関砲として現代でも使用されるボフォース40mm機関砲も史実通り開発されることになるが、日英とその友好国はそれに対抗できる自勢力圏開発の兵器を手にしたことになる。史実のボフォース40mm機関砲同様に、この武器も様々な兵器に搭載され、あらゆる戦場で兵士たちに頼られる傑作機関砲に成長していった。