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漆黒の風~意地と意地がぶつかる競走~

原型が残っていませんが、タイトルは某映画内のBGMから。

東京放送局(NHKの前身)は史実ならもう少し後に設立されるんですが、生中継とはいかないまでも、景気づけの特番のために内定済みのスタッフを派遣して収録だけしている感じでお願いします。

「素晴らしい晴れ空が広がります秋のヴェネツィアです。この空を、日本を含む6か国の翼が、世界最速を目指して駆け抜けます。第7回ジャック・シュナイダー氏章典海上航空競走通称シュナイダートロフィーレース、実況は社団法人東京放送局の熊崎真吉、解説は日本で初めて飛行機免許を取得した女性であり、帝国人造繊維株式会社でテストパイロットを務めていらっしゃいます兵頭精さんですよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「それでは兵頭さん、早速ですが、今回のレースについて概要をお願いします」


「はい。今回は一周50kmある三角形のコースを7周、合計350kmを最も早く飛び終えた機体が勝者になります。最高速度が重要なのはもちろんですが、最高速度のまま飛び続けられる信頼性、事故なく離着水し飛行できる安定性も勝敗を決めうる特性ですね」


「競馬のサラブレッドによく似ていますね。まずは足の速さがないと勝負になりませんが、故障しない頑丈さや出遅れたり掛かったりしない気性の良さもないと勝利に結びつかない」


「良いたとえだと思います」


「ありがとうございます。さて、今回初挑戦となる日本勢ですが、こちら使用機体の帝国人造繊維製"川鴉"について、機密に抵触しない範囲でご教授いただけないでしょうか」


「はい。ST11R川鴉は全長7.1m、翼幅7.6mの飛行艇でして、競合機に対して一回り小型軽量であるのを優位点とする日本、そして弊社らしい機体です。播磨造船所の協力の元、機体重量の半分以上を繊維強化樹脂材料で構成しており、アルミニウム合金製の発動機はドイツMAN社の技術協力によって、ディーゼル発動機の物を応用した機械式燃料噴射装置で従来の気化器を置き換えました。さらに、許容回転数を引き上げるため、東北大学で開発された高周波焼き入れが、必要な部品に施されていますね」


「要するに、勝つために知恵を絞って作られた機体ということですね。さて、そこまでして作られたこの川鴉ですが、実際のところ勝機はどの程度の物なのでしょうか」


「5割がせいぜいですね~……いや、この相手に5割ってすごいと思いますよ。どの国も事情は変わりませんが、川鴉もまた、かなり無理をしている機体です。機体は間違いなく最小最軽量ですが、発動機は離昇出力でようやく互角、公称出力では間違いなく負けていると思いますので……だからこそあれに乗って各国のエースと戦ってみたかったんですけどね~……残念です」


「詳しい事情は聞かないこととしますが、敵もさるもの、苦しい戦いになるということですね、ありがとうございます……さあそろそろスタート予定時刻ですが双眼鏡で覗いてみますと……あ、スターターが旗の用意をしていますね。各国機体の方を見てみますと……ああ、もうプロペラが回っていますね。発動機に火が入って、いつでも発進できる状態のようです。さあ、スターターが旗を構えて……第7回シュナイダートロフィーレーススタートが切られました!日本勢がいいスタートを見せてぐんぐんぐんぐん加速していきます!あ!今日本の和田が離水しました続けて佐藤、武部も離水!少し遅れてオーストリア勢、そしてイギリス勢、フランス勢が離水し、アメリカ勢はやや後ろ目から、一番最後に離水したイタリア勢は最後方からのレースになりました」


「アメリカとイタリアは機体重量に対して翼面積が不足気味なんでしょうね。その分最高速度は高いはずですから、ここからの伸びが怖いですよ」


「さあ無事に全出場機体がここヴェネツィアの空へと飛び立ちました。6か国の空の勇者たちが、栄光に向けて、350kmの旅路を駆け抜けます」




「さあ、2コーナーを曲がってきたんでしょう、二周目に入ろうと出場各機が戻ってまいりました。スタート時と順序の入れ替わりはありますが、各機の間にあまり差はないようです。まずハナを切っているのはアメリカのドゥーリトル、続いて二番手にはイタリアのデ・ブリガンティが付けています。三番手はやはりイタリアのモルセッリが追走していて、四番手はオーストリアのフォン・バンフィールド、五番手に日本の佐藤章、以降、イギリス勢と日本勢が入り乱れて……ああオーストリア勢の残りとフランス勢はちょっとついていけてないようですね」


「日本勢とイギリス勢が使用している発動機は、発熱量が大きいのでスロットルを全開にできる時間が限られているんでしょうね。おそらく、離水した後エンジンを冷やすためにスロットルを緩めた時に抜かれたんでしょう。一方イタリアとアメリカの発動機は排気量が大きいので、色々と余裕があるんだと思います」


「さあ各機、3コーナーを曲がって2周目へと入って……おっと!?ただ一人のフランス勢であるユーレルの機体から突然黒煙が噴きあがりました!見る見るうちに高度が下がって……何とか無事に着水できたようです。しかし何ということでしょう!この第7回シュナイダートロフィー!早くも!脱落者が出てしまいました!」




「さあ泣いても笑ってもこれが7周目。2コーナーを曲がれば最後の直線です。各国各機、どんな絵をそれぞれ思い描くのか。さあそろそろ姿が見えてくるはず……!最終直線、アメリカドゥーリトルまだ先頭、内側二番手イタリアモルセッリ、三番手はイギリスのブロードが猛烈に追い上げている!日本の武部はそのすぐ後ろ!あとから佐藤とイギリスのビアードも懸命に追ってくる!」


「多分この周かその前くらいで日本勢はスパートをかけていると思います!後はエンジンがどこまで持つかの我慢比べですよ!」


「先頭4機が必死の競り合い!アメリカ勢最後の砦ドゥーリトル!母国を錦で飾りたいモルセッリ!雪辱を期すブロード!そして全国民の夢と希望を胸に飛ぶ武部!そこに後続二機が絡もうとして横一線!横一線だ!何が来てもおかしくない!残りあと3km!各機全く譲らない!これは大接戦!大・接・戦・のゴール!……先に伸びたアメリカ、イタリア勢か、後から猛烈な追い込みを見せたイギリス、日本勢か……実況席の位置からはどこが優勝したのか全く見えませんでした……後ほど情報が入り次第改めてお伝えいたします」

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挿絵(By みてみん)

本作世界のチベットを題材にしたスピンオフがあります。

チベットの砂狐~日本とイギリスに超絶強化されたチベットの凄腕女戦車兵~ 

よろしければご覧ください。
― 新着の感想 ―
[一言] …なんか、おうまさんのきょうそうをきいているようなきぶんになりました! おもしろかったです!! 冗談はさておき、エアレースですね。 昔は機体の性能を。 今は操縦士の腕を。 今昔共にそれぞれ…
[一言] なんとか完走はできたようだし、大負けはせずに勝負にもなったようだから、急遽参加にしてはかなり良いよね。 次回は日本機もマークされるだろう。
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] ハナ差の写真判定
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