燃え盛る中東
欧州の復興が順調に行われる一方、中東情勢は混迷を極めていた。ロシアは一次大戦中に東アナトリアを占領し、講和条約で多額の賠償金とともに割譲させる。
「オスマン帝国も腐ってて大概だったが、ロシアは我々を人間だと思っていないのか!」
「食っていくだけでも精いっぱいなのに税金なんて払えるわけないだろ!」
早く大戦の負債を回収したいロシアは占領地で過酷な収奪を行い、当然のように激しい反発を招いて治安を悪化させていた。
一方トルコでも、中東やアフリカの領土もイギリスとフランスに奪い取られたことに国民が激怒しクーデターが発生、ロシアに対する防衛戦で戦功を上げたムスタファ・ケマル率いるトルコ共和国が成立した。
「ロシアに奪い取られた東アナトリアのトルコ人たちは、今もロシアによる過酷な収奪に苦しんでいる。彼らを助けなければならない」
直接対決では絶対にかなわないトルコは、東アナトリアの反ロシア派を細々と支援して抵抗運動を展開させつつ、この世界ではガリポリに上陸していないイギリスに接近する。
「中東におけるロシアの勢力が伸長するのは、石油利権を持っているペルシャを危険にさらすことになる」
「とはいえ、大っぴらにやられたら今度は中東で欧州列強が争うことになるだろう。そうなってしまっては今度こそヨーロッパ諸国の凋落は避けられなくなってしまう」
イギリス政府はトルコの扱いに苦慮した。彼らとしては、今ロシアと直接対決することを避けたいものの、これ以上ロシアが中東への影響力を増し、イギリスが持っている石油利権なども奪われてしまうのは非常にまずいからである。
「日本に支援させるのはどうだ?彼らなら、トルコとのつながりを持っていて支援を行う口実がある」
「しかし彼らは我々の同盟国だぞ?我が国の関与をロシアに疑われないか?」
「そのあたりは彼らの外交手腕に任せるしかないだろう……が、日露戦争前に我々と同盟を結んだり、欧州大戦でオーストリアを離反させたりした手腕を見るに、信用していいと考える」
こうしてイギリスは日本にトルコ支援を押し付け、労せずロシアに嫌がらせをすることに成功した。だが、黙ってやられるロシアではない。東アナトリアの抵抗運動鎮圧に乗り出す傍ら、ペルシャの親ロシア派を支援し始めたのである。これに泡を食ったイギリスは、史実通りペルシャに保護国化の要請を出してしまう。
「我々はイギリスの奴隷になるつもりはない!」
「もう我慢の限界だ!ヨーロッパ人をペルシャから叩き出せ!」
イギリスの行為はペルシャ人たちの反発を招き、ペルシャ国内は独立派、親ロシア派、親イギリス派の3つ巴の内戦状態になってしまった。
「あーもーめちゃくちゃだよー。どうしてみんな仲良くできないかなあ……」
「我々と同じように、彼らにも長い歴史があります。その中で長年培われた憎悪と疑心暗鬼を克服することは、並大抵の努力では叶わないでしょう。我々も、弱い国のままでは、ああして振り回される側に立っていたでしょうね」
列強の思惑に振り回される中東諸国を憂う大正天皇に、鷹司煕通はそう答えたという。