宝の盆地
「なあなあ、あいつらはあんなところで何をしているんだ?」
「さあ……?地面に何が埋まっているか調べてるとか言ってたが」
「お宝でも埋まってるのか?」
「わからん……全然わからん……」
地元のチベット人たちが困惑する中、ツァイダム盆地で試掘を行っているのは日英の鉱業界の人々である。
「塩湖があるだけあって鉱物資源は豊富だな……特にマグネシウムやカリウム、石灰岩の鉱床は有望だ」
彼の上げたものの他にツァイダム盆地には、リチウム、ナトリウム、珪素などの大規模鉱床がある。だが、ナトリウムは海水から容易に採取でき、リチウムと珪素に至ってはまだ有効な活用方法が開発されていないため、彼はさほど価値が無いものとしてみていた。しかし、ツァイダム盆地に埋蔵されているものはほかにもあり……
「向こうの石油チームから、原油と天然ガスの埋蔵が確認されたって先ほど連絡が来ましたよ」
「何!?それはすごいな……ここはまさに宝の盆地だ」
彼らの言うように、原油と天然ガスの埋蔵も確認されている。まさに希少資源の宝庫なのだ。
「さて、ここは資源産出地として確かに有用なことがわかった。しかしだ……」
「この資源を、どうやって外に運び出しましょうね……」
ここ、チベットは標高3000m以上は当たり前の高原に位置しており、これを海辺まで持ってくるというだけで多大な困難が伴うのは想像に難くない。特に、チベットを独立させた関係で中国と日英の関係はあまり良くなく、そうなるとインド方面に進路を取って最終的にバングラデシュのあたりに持っていきたいが、今度はヒマラヤ山脈をどうやって超えるかという話になる。
「思ったよりもずっと早く、そして意外な方面からこの問題に突き当たってしまったな……」
ツァイダム盆地から様々な鉱物資源が産するものの、輸出しようにも経路がないという報告を受けたダライラマ13世もまた、頭を抱えていた。
「政治的には日英に近いのに、地理的にはヒマラヤ山脈が障壁となって中国の方が結果的に往来しやすい……」
「日本との陸軍兵士の交換留学のように、少数の人間を輸送するのであればウマやロバで何とかなったのですが、さすがに今の時代に荷馬車を使って貿易をするのは効率が悪すぎます」
欧州大戦にささやかながら参戦し、さらに名声を高めたツァロンの表情も暗い。彼らはチベットの爆発的発展のチャンスがこんなにも急に巡ってくるとは思わず、手堅く足元を固める内政をしていたため、「ヒマラヤを超えてインド方面と活発に交流するための交通ルート作成」の準備を何もしていなかったのである。まあ、未来を知っているわけでもない彼らがこの事態に備えるなど、土台無理な話ではあるのだが。
「ああ……しかたあるまい。今回の発見を逆に餌にして、何とかインド方面に抜けるルートを日英に作ってもらうとするか」
「彼らがそこまでして食いつきたくなるような魅力があるかはわかりませんが、そうするしかありませんね……」
その後、「シガツェからネパールのカトマンズに抜けられるのではないか」という検討結果が出て、ゴルムド-ラサ-シガツェ-カトマンズを結ぶ大規模鉄道路線の建設計画がスタートしたのである。
最後のシガツェ-カトマンズ間ですが、ハイウェイは通っているものの、現実でも鉄道は通っていません。これ、下手すると耀子さんが生きている間に全通しないのでは……?