乾燥した完走した感想
「乾燥」と「完走」のどちらを先にするかで迷いました
鷹司兄妹もまた、上機嫌で帰宅の途についていた。
「芳麿様も武彦様も本当に良い方で……今日お会いできてよかったです」
「そうだろう。芳麿様はいつも言っている通り病弱なのを押して軍務につく傍ら鳥学を学んでいらっしゃるし、武彦様も弱冠19歳で山階宮家の当主を良く務めていらっしゃる。あの家の方々は本当にすごいよ」
初対面で、しかも皇族という高貴な家柄の人物であったが、そうした先入観で見るから萎縮してしまうのであって、ちゃんと人を見てみれば耀子にとってとても話しやすく、信輔が絶賛するのもよくわかるというものである。
「ところで今更なんですけど、どうしてお見合いの相手が芳麿様だったのでしょうか。年齢を考えれば、武彦様の方が順当だと思うのですが……いえ、芳麿様に不満があるわけではなく」
「そのあたりもまたちょっと複雑な事情があってね……」
信輔は少し渋そうな顔をする。
「実は、今皇族が多すぎるのではないかということが、政府内部で言われているらしくてね……」
「はあ。なんか急に生臭い話になりましたね」
「皇族の生活費の一部は政府予算から出ている。だが、いくら耀子たちの努力で国が豊かになってきたとはいえ、必要なものはいくらもでも湧いて出てくる状態だ」
「それで皇族を減らして他に予算を回そうと……いつの時代も下らないはした金に執着する悪癖は変わらないか……」
耀子はため息をつく。前世で野党が指摘する「政府の無駄」の大部分が、このような数千万円程度のどうでもいい金(庶民にとっては大金だが、政府予算の規模からすると割と少ない)を削減しようとするもので、その結果他の大切なものを失うということがよく起きていたのである。
「でも、どうやって皇族を減らすのですか?唐突に追放などをすれば色々問題だと思いますが」
「どうするかはまだ詰めている最中のようだけど、御国への奉公を説いて『自主的に』臣籍降下していただく、という方向らしい」
信輔は華族仲間や煕通から聞いた話を総合し、そのような予想を耀子に伝えた。
「対象者は……各宮家の次男以下でしょうか?ん?次男?」
「察しが良いね。そう。このままいくと、芳麿様は近いうちに臣籍降下を迫られることになる」
史実では3年後に皇族の降下に関する施行準則が勅定され、耀子が予想した通り、天皇の傍系となった皇族は永世皇族ではなくなり、長子以外はすべて臣籍降下することになる。実際、史実の芳麿もこれにしたがって「山階」姓を賜り、皇族から離れている。
「他人の不幸を喜ぶのもどうかとは思いますが、正直なことを言うと私としてはむしろうれしいですね。しがらみがなくなって動きやすくなるので」
「おそらく、芳麿様も同じことを言うと思うよ。話してて分かったと思うけど、殿下は堅苦しい上下関係とかを好まない人だからね……」
「なるほど、つまり信輔お兄様としては、将来皇籍を離脱する芳麿様を支えられる配偶者として私が適任であるし、同時に私としても、芳麿様が皇籍を離脱するのならさほどしがらみに縛られることもないと」
信輔の話を聞いて、耀子はポンと手を打った。
「そういうこと。あと、武彦様は賀陽宮佐紀子様と仲が良いらしいから、無理に耀子を引き合わせる必要もないんだよね」
「おっと、お兄さん、ちゃっかりしてるなあ」
未来を知っていても、器用に立ち回れるかというとそうでもないことであるなあと、思いを馳せる耀子であった。