お見合いの感触
大変お待たせいたしました
その後、お見合いは滞りなく終わり、お互い人格に問題はなく、同じ学者肌の人間同士ということで気も合いそうであるということから、交際を続けるということで話がまとまった。
「最初はおとなしかったが、いったん場に慣れた後はやはり『維新以来の才女』と呼ばれるだけのことはあったな」
鷹司兄妹が帰った後、武彦は芳麿に耀子の印象を話す。
「ご自身の専門のことはもちろん、私や鷹司……信輔さんの専門分野のことでも素晴らしい切れ味でしたね」
「学者先生というものは往々にしてわかりにくい言い回しをするもので、それはそれで読み解くのが楽しいからいいのだが、彼女の話は愉快でわかりやすく、それでいて奥深いのだから恐れ入るよ」
やはり話題はおおよそ一般的なお見合いとはかけ離れた学術的な話題が多数を占めていた。とはいえ、お互いに「趣味で研究している」人物であるため、本人たちにとっては「趣味の話題が盛り上がった」というだけなのであるが。
「すごく手慣れていましたよね。逆に自分が知らない分野の研究を話されても、よく理解してましたし、質問も的確でした」
「海軍では欧州大戦の戦訓から、今熱心に飛行機乗りを募集しているのだが、あれだけの人物が設計したとわかれば私も安心して乗ることができるな」
武彦は現在海軍兵学校に通う海軍軍人である。史実でも海軍砲術学校を卒業したのちに航空隊付になっているが、史実よりもずっと海軍が飛行機の活用に熱心であることと、今日の耀子との会話から、本格的に航空士官への道を進もうと考えるに至った。
「そうですね……さすが信輔さんの妹さんといった感じで、話しててすごく楽しかったです」
「ならまたすぐに会いに行けばいい。もう彼女は東北大学を卒業しているのだから、そんなに難しいことでもないだろう」
このように、芳麿から耀子への第一印象は、本人の心配をよそにかなり良好であった。それは、山階宮家が洋風の生活様式を送ったり、技術開発に従事したりするなど比較的進取的な家風を持ち、この時代ではかなり進歩的な存在である耀子を、素直に受け入れることができたからであることは言うまでもないだろう。