いつもそばに
タイトルはトウゴマの花言葉から。
「……というわけで、最終的にひまし油からポリアミドを合成することができるというわけですね」
弱火にかけられているガラス管から糸を紡ぎながら耀子は学士論文の中間報告を行った。
「えーと、反応を振り返りますけど、まずひまし油を鹸化するとリシノール酸ができて……このリシノール酸を、熱分解するんですか」
「はい。そうするとウンデシレン酸とヘプチルアルデヒドができるので、ウンデシレン酸の方を使います」
「末端に二重結合があるから臭化水素を反応させて……臭素を付加してやれば、ここにアンモニアが反応できるから、両末端にカルボキシル基とアミノ基がそろった分子ができるわけだな」
黒田と真島が反応経路を振り返る。その間に耀子は火を消して片付けを始めた。
「PA66より85℃低融点で、飽和吸水率は1/8程度。そして剛性は低いですが、その分破断伸びはすさまじいことになっていますよ」
「はあ……それって、鷹司さんとしては"使える"モノなんですか?」
「それはこれから考えることですね」
耀子が合成したのはナイロン11……あるいはリルサンと呼ばれるポリアミドの一種である。この樹脂は本来1947年にフランスの化学会社が開発するもので、耀子が語った通り、ひまし油から合成することができる。66ナイロンは石炭もしくは石油由来の成分から合成しなければいけないため、植物油脂から合成できることは、資源の乏しい日本にとって大きなアドバンテージになる……はずである。
「トウゴマの生産に向いている土地がインド亜大陸と支那大陸というのは少々つらいが、石油よりはずっと手に入れやすいだろう。学士には十分すぎる成果だ」
「ここからもうちょっと頑張ってみますよ。まだまだ試したいことがありますから」
彼女の前には、大量のやりたいことが積みあがっていた。
耀子が大学に来た目的の1つが達成されました。資料調査のためにこの程度の文字数しか書けなかったので、後々加筆するかもしれません。