金のガチョウの行方
お待ちかねの分け前回です。(オスマントルコについて記述がありませんが、日本に関係がないので省略されただけです)
中央同盟国すべてが休戦もしくは降伏したため、フランスのベルサイユで改めて講和条約の交渉が行われた。
「今次大戦においてフランスがドイツから受けた損害は計り知れないものがある!ドイツにはこれらすべてを賠償させるべきだ!」
「毒ガスなどというハーグ陸戦条約違反の野蛮な兵器を平然と使う国は、完膚なきまでに叩きのめして二度と再起できないようにするべきだろう」
ドイツに一方的に叩きのめされ、危うく首都を占領されるところだったフランスと、毒ガスをまかれて大損害を被ったロシアは、ドイツに対する苛烈な報復措置を要求した。これに異を唱えたのは日本とイギリスである。
「中国から日本へ伝わった言葉に『過ぎたるは猶及ばざるがごとし』というものがあります。ドイツを懲らしめようとして、末代まで祟られるような憾みを持たれれば、いずれ刺し違えてでも連合国を倒そうとするでしょう。そうなれば今次大戦以上の悲劇が起こります」
「フランス革命であらゆるものを焼いて回った貴国では伝承が途絶えてしまっているのかもしれないが、ここヨーロッパにはドイツ発祥の金のガチョウという童話がある。貴殿らは金の卵よりもガチョウの肉が欲しいのか?」
日本は復讐の連鎖による破滅の面を、イギリスはドイツの支払い能力の面を強調し、仏露を必死に抑えた。イギリスの経済学の権威ジョン・メイナード・ケインズは、ドイツの支払い能力を「頑張っても40億ポンドが限界」と見積もっており、それをはるかに上回る仏露の要求を通して、じわじわと搾り取りたい日英の取り分を踏み倒されるのは何としてでも阻止したかったのである。
一方ロシアも必死であった。かの国の財政は戦費に圧迫され、国民は重税にあえいでおり、またもや革命の火がくすぶり始めている。その焔が国家を焼き落とす前に、力づくでも鎮火させるための金が必要であった。
結局、主要な賠償項目は以下の通りとなる。
ドイツ
・ヴィルヘルム2世は退位する
・東プロイセンをロシアに割譲
・赤道以北の太平洋に面した植民地を日本に、赤道以南の太平洋に面した植民地をイギリスに割譲
・ロシア、フランス、イギリスに賠償金を支払う
・日本が1903年1月~1915年4月にイギリスに売った外債を肩代わりする
・ドイツの企業は日本、イギリス、フランス、ロシアの企業に、無償の技術指導と技術提供を行う
・イギリスに潜水艦関連技術とノウハウを無償提供する
オーストリア=ハンガリー
・フランツ・ヨーゼフ1世は退位する
・クラクフ市街地を除くガリツィア・ロドメリア王国の平野部をロシアに割譲
・日本に潜水艦関連技術とノウハウを無償提供する
・セルビアの復興費用をブルガリアと共同で負担する
ブルガリア
・セルビアを保護国とする
・セルビアの復興費用をオーストリア=ハンガリーと共同で負担する
ブルガリアだけまるで戦勝国のような条件であるが、これはオーストリア=ハンガリーにセルビアを渡すことをロシアが強硬に反対したため、同じスラヴ系民族の国であるブルガリアにセルビアを渡すという妥協がなされたことによる。もとはと言えば、セルビアをロシアが煽って始めさせた戦争であり、そのセルビアが全土をオーストリア=ハンガリーとブルガリアに占領されていた以上、相応の裁定を下す必要があった。
後世の歴史家は、このときに日本が「最後の決戦」に挑むための布石が整ったと見る者が多く、この結果を誘導しようと尽力した侍従武官長 鷹司煕通中将の手腕を高く評価している。
というわけでこんな感じでまとめてみました。仏露が即物的なものを収奪していく一方、日英は技術やノウハウをもらっていくという感じです。具体的な賠償額を描写しませんでしたが、史実よりは格段に少ない金額ですので、過激派団体が台頭してくることはなくなったとみていいでしょうね。
そういえば、伍長も毒ガスを喰らわずに済んでいるはずです。声がしゃがれなくてよかったですね。