装輪装甲車
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一次大戦で機械化された陸軍の強さを見せつけた日本軍は、その後も重厚長大路線をひた走っていた。
5tに満たない豆戦車から始まった国産戦車は、今や20tを超え、30tの大台に乗りつつある。そうなってくると、ふとこんな疑問が思い浮かんでくるものだ。
「今の陸軍、小回りが利かないのでは?」
と。
「小回り?」
「ああ。今の我が軍に、5t以内の機甲戦力がいないと思ってな。十年式も退役して九三式への置き換えと自走砲化が進んでいるだろ?」
ある日、陸軍兵器局の菅晴次が、陸軍技術本部の原乙未生と昼食を囲っていると、菅が小型軽量な機甲戦力がないことを懸念し出した。
「まあそうですが……」
「だから、5t以内のなんか安くて、重砲の牽引車としても使える装甲車があると、便利じゃないかと思うんだ。昔の仮想敵国はロシアだったが、今はアメリカだろう?」
「たしかに、ろくなインフラがない離島で戦うことも、想定すべきなのかもしれませんね」
例えばフィリピンやハワイにアリューシャン列島など、アメリカ本土上陸までには何かしらの島嶼戦が行われる可能性が極めて高い。その時、貧弱なインフラでも使用できる機甲戦力があれば、その分戦闘で有利になるだろう。
「じゃあ、一度作ってみますか?」
「ぜひお願いしたい」
とまあ、意思決定はその場のノリで行われつつも、後日ちゃんと手続きは踏まれて装輪装甲車の試作は発注されたのだった。
「ジムニーに装甲と武装を載せろってことか……」
そうして発注を受けたのが、くろがね重工業だったのである。あくまで簡易な兵器であることを徹底するため、ジムニーコンポーネントを流用して開発せよ、と言うのが狙いだった。
「武装は九四式機関砲か九四式山砲を搭載すること、ね。どっちも500kgぐらいの兵器だから、載りはすると思うけど」
市場から中古で買ってきたジムニートラックの横で、蒔田鉄司をはじめとするくろがね重工業設計陣と耀子が仕様書を囲んでいる。各軍用機や戦車用のエンジン、一号および二号自走砲車など、サプライヤとしての兵器開発ならやったことがあるが、実は1つの兵器をまとめるのは初めての事だった。
「まあ、軍特有の要求事項とかもあるけど、普通の自動車を作る時と変わらない気持ちで設計すればいいです。まずは武装を載せてみて、余った重量で装甲を貼りましょうか」
実際、ジムニートラックの荷台に三八式野砲を載せることが、チベットなどで行われている。単にジムニーに武装を載せるだけなら、そこまで苦労はしないものと思われた。
そうして出来上がったのが以下のジムニーである。
帝国人造繊維 SJ32A 試製軽装甲車
乗車定員:2+2名(操縦席に運転手と車長、後部戦闘室に砲手と装填手)
車体構造:鋼製ラダーフレーム
ボディタイプ:2ドアピックアップトラック
エンジン:帝国人造繊維 "B10C" ユニフロー式2サイクル水冷直列2気筒直打OHC1バルブ
最高出力:75hp/5600rpm
最大トルク:11.1kgm/3200rpm
駆動方式:パートタイム4WD
主変速機:前進5速後退1速フルシンクロ
副変速機:2H、4H、4L
サスペンション 前/後:車軸式縦置きリーフスプリング
全長:4550mm
全幅:1800mm
全高:2200mm
ホイールベース:2,250mm
車両重量:4990kg
ブレーキ 前:ベンチレーテッドディスク 後:リーディング・トレーリング
主砲:九四式山砲
口径:75mm
砲身長:1.56m(21口径)
砲口初速:392m/s
装甲貫通力
破甲榴弾:58mm/90°@100m、53mm/90°@500m
九四式穿甲榴弾:135mm/90°@100m、150mm/90°@500m
装甲
砲塔正面:25mm
砲塔側面:13mm
砲塔天蓋:なし
砲塔背面:なし
車体正面
上部:25mm60°
下部:13mm30°
車体側面:7mm90°
車体背面:7mm90°
車体上面:なし
車体下面:なし
「おぉー」
「なんか強そうですね」
完成した試作車を目の当たりにして、設計陣は歓声を上げるが、耀子は浮かない顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「これ、十年式を再生産した方が使いやすいんじゃ……?」
出来上がった車両を見て、耀子はこの装甲ジムニーの有用性に疑問を感じていたのである。
「十年式?」
「大正のころに陸軍が開発した戦闘車。こいつとスペックが似通ってるの」
「でも古いなりにこいつが勝てるところもあるのでは?」
「そりゃあね。でもそれだったら十年式を近代化するという手もあるわけでさ」
十年式軽戦闘車の生産はすでに打ち切られているから、それを再開するのはそれなりの手間がかかる。とはいえ、ジムニーのバリエーションを増やすのも、コストとしては大差ないのだった。
後日、装甲ジムニーは陸軍の試験場に送られ、各種試験を行うこととなった。
「車重5t以内で75mm砲を搭載できるとは、なかなか使い勝手がよさそうじゃないか」
提唱者の菅は満足そうである。
「まあ、最近は満州の方でも小競り合いが多く発生しているし、そういった低強度紛争というか、限定戦争というか、そういった戦場で使いやすい車両だというのはわかるが……」
「そのための車両をわざわざ用意するか、というと、私は疑問ですねえ」
一方、鷹司兄妹は装甲ジムニーに対して懐疑的な見方をしていた。
「というか、お前のところの製品だろ。なんでそんな売込みに消極的なんだ」
「そりゃあ、『お客様の立場になって』考えたときに『価値ある製品を作』れたか怪しいと思ってるからですよ」
兄の突込みに妹がぶっきらぼうに答える。彼女はいまだにこの製品を信用していなかった。
とはいえ、試験の結果、耐久性と走破性に問題はあるものの車重5tで75mm砲を振り回せることは貴重であるとして、とりあえず実地試験に回されることになったのである。
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