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【書籍化】令和の化学者・鷹司耀子の帝都転生 ~プラスチック素材で日本を救う~【旧題:鷹は瑞穂の空を飛ぶ】  作者: 雨堤俊次/コモンレール
世界恐慌編

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プレイヤーたちの思惑

今年もお疲れさまでした。また来年もよろしくお願いします。

 史実と違い、一度は挫折を味わったフランクリン・デラノ・ルーズベルト。4年越しのリベンジは成功裏に終わり、今はホワイトハウスの主として米国経済の立て直しに奔走していた。


「結論から言うと、ニューディール政策は順調に進んでいる。そういうことでいいのだな? 国務長官」

「ええ。アメリカおよび中国各地でのインフラ改良事業により、失業者達に職を与え、現金を渡しております。これによりひたすら金を出し渋る傾向にあった国民感情も緩和され、景気も少しずつ上向きはじめました」


 史実のニューディール政策との差異として、公共投資がアメリカだけでなく、中華民国にも行われたことにある。この中国内の事業についても現地企業ではなくアメリカの企業が受注し、作業も渡航したアメリカ人の手によって行われ、その代金は中華民国から現銀で支払われていた。つまり、アメリカだけでなく、中国の国庫も使っての経済対策になっているため、史実よりも早く、大きな効果を上げ始めている。


「よろしい。中国にはこのまま力をつけてもらいつつ、アメリカ企業に市場を開いていってもらおう。満州という一地域の独占に固執するより、中国全土を緩く支配する方がずっと良い。自由主義の観点から言ってもな」

「共和党の議員の中には、満州を再びアメリカの手に取り戻すよう叫ぶ者もおりますが、過去の栄光が忘れられないのでしょう」

「まあ、満州を『中国の手に』取り戻せというのなら、わからんでもないがな」


 1936年初頭に始まった国清内戦は、装備に劣る中華民国軍と、経験が足りない清国軍との間で戦況が泥沼化し、1年もたたずに停戦した。

 戦争の中で自国軍装備の劣位を痛感した中華民国は、間接的な敵国であるはずのアメリカに接近。宋美齢などに中国統一の悲願や分断統治を志向する日欧列強の非道さを喧伝させ、少しずつアメリカ国内の世論を清国寄りから中華民国寄りに傾かせている。


「中国は1つの中国であるべきでしょう。それを実現するための対価は頂きますが」


 そうしてアメリカ人たちの同情を買い、中華民国はアメリカによる公共投資代行やトラック等の装備購入を推進している。その結果銀が流出しても、それは必要な犠牲であり、正当な対価だと考えていた。


「我が国も今となっては他国に()()を与える余裕はないからね。もらうべきものはもらいつつ、将来の稼ぎをさらに増やしていく。そうすれば、日本に打ち壊された米国経済も、再び活気を取り戻すだろう」


 彼らもまた、大恐慌は日本による米国株の大規模な売り注文によって起きたと信じており、いつかそのツケを払わせるべきだと考えている。実際の売り注文は、アメリカ人たちの思っているほどの規模ではなく、米国経済が健全な状態であったならびくともしないはずの行為だったのだが。




 ところ変わってクレムリン。こちらでも大恐慌によってずたずたに破壊された経済を、共産制の導入によって立て直そうとしていた。


「……正直、もっと資本家(ブルジョア)どもの抵抗があると思ったのだが」

「溺れる者は藁をもつかむといいます。我々の指導に従うことで、その日のパンが食べられるならば、ブルジョアとて抵抗しないのでしょう」


 トロツキーのつぶやきに、カーメネフが反応する。また、彼らはさして問題にしていなかったが、史実と違い内戦を起こさず、国民の支持を集めて選挙による政権奪取を実現したことで、史実より共産党が各方面からの恨みを買っていなかったことも大きかった。


「世界革命への道のりは長い。特にアメリカの資本主義の亡者どもがやらかした世界恐慌によって、我が国の経済も行き詰まり、革命を広げていくための地力が喪われてしまった。そのために国内のブルジョアや富農(クラーク)労働者(プロレタリアート)に転換されたのは不幸中の幸いだったが、地球上に住む全人民を開放することが共産主義の使命である。その日を一日も早く来させるための力を取り戻さなければいけない」


 そういうとトロツキーはトゥハチェフスキーの方に目を向ける。


「同志トゥハチェフスキー、我が軍の現状は相変わらずか」

「はい、同志トロツキー。この1年で規律はずいぶんと回復しましたが、練度についてはまだ資本主義者どものレベルには及びません。スペイン内戦では機甲戦力を集中運用するファシストどもに煮え湯を飲まされておりますし、極東でも挑発した日本軍相手に撃ち負けるなど、まだ課題は多いと考えます」


 トゥハチェフスキーは率直な感想をトロツキーに述べた。どこかの筆髭のような猜疑心の奴隷が権力の座についていないため、今のところは正常な報連相がこのロシアでも行われている。


「得られた戦訓を徹底的に分析し、速やかに全軍で活用せよ。今はまだ、ヨーロッパの後進国の軍隊だと思わせておけばよい。しかし5年後には、再び世界最強の陸軍となるように研鑽を怠るな」

「はっ!」


 財政破綻と国内の混乱によって史実よりも早く、大粛清後のように弱体化したロシア軍であるが、今の政府は有能な指導者たちを粛正するほど正気を失ってもいない。徹底的な中央計画経済と急進的な陸軍再建計画によって、彼らが再び世界に覇を唱えんとする日も、きっと近いのだろう。




 そして1937年12月31日の日本。今年も二年参りに赴こうと、耀子たちは深夜に街を歩いていた。


「いやあ、今年の日本は平和で何よりだったね」

「スペインはまだ内戦してるけど……」

「それもそろそろケリつきそうだし、我が国には義勇軍の負担ぐらいしか影響ないじゃん」


 平和を喜ぶ耀子に芳麿が突っ込みを入れると、あくまで日本列島が平和ならそれでよいと言いたげに耀子が言い返す。


「それはまあそうだけどさあ……」

「いや、わかるよ? スペイン内戦が終結しても、露仏が赤いのは変わらないし、ファシ化したイタリアとの付き合い方も考えないといけない。でも、我が国が平和だったことは事実で、まずはそれを喜びたいなって」


 史実では盧溝橋事件があり、日中戦争がはじまった年である。そんな年に日本には何もなかったということが、耀子にとってはうれしかった。


「まあ、それもそうだね」


 耀子の反論に芳麿も同意する。沿海州のロシア国境では緊張が高まっているし、中華民国は着々と国力を増大させていて、清の存在を脅かしていた。でもそれはまた来年考えればよい話で、今日は今年1年の安寧を神に感謝した方がいいと思ったのである。


「……来年も、こんな風に平和な年末を過ごせるかな」

「それを今から願いに行くんじゃない?」


 ぽつりと、心配そうに耀子が言うと、芳麿がそんな風に慰めた。


「まあ、それもそうだね」


 そう言って耀子は気を取り直して歩き出す。来年も、家族みんなで平和な年末を迎えられることを祈って。

辺境伯家の食客も更新継続中です。最新話はこちらから。ついに開戦し、主人公側の防衛計画を確認しています。

https://ncode.syosetu.com/n7555jm/34


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挿絵(By みてみん)

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チベットの砂狐~日本とイギリスに超絶強化されたチベットの凄腕女戦車兵~ 

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アメリカはルーズベルトによる「中華民国の金も借りたニューディール政策」かぁ。 この時期のアメリカはまだ金本位制の筈?で、中華民国よりの世論を何とか作ったのは良いけれど…。中華民国食い物にされてるやん。…
神「無理かな」
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