この時期の重戦車開発に必要なこと
先週は更新できずすみませんでした。たぶん来週も辺境伯家の更新のため、休載するんじゃないかと思います。
耀子が軽量・高出力な2ストロークエンジンを様々な兵器に採用させたことで、この世界の兵器のスペックは史実に比べて10年前後前倒しされている。
……もちろん、様々な事情により列強でも前倒しされていない国はあるが、兵器開発はチャンピオンデータに基づいて進めるのが理想だ。
「名目上は重戦闘車開発ということになっていますが、15年くらい先の中戦闘車を開発するつもりで進めたほうが良いでしょう。そうなると、この『とにかく120mmを載せて走れればよい』という要目ではなく、もっと拡張性のあるものに変更すべきです」
史実のM26パーシングを念頭に、現在の十二年式中戦闘車を置き換える存在として開発すべきだと耀子は主張する。
「……確かに、十二年式は75mm砲を積むために車体容積に余裕があったから、10年以上改良だけで第一線を戦い抜けたところはある」
「我が国の開発速度の場合、75mm砲を積まないと早々に陳腐化して役に立たなくなると私も思いましたからね。私が三八式野砲を改良して載せるべきと主張したら、山階さんが八年式野戦両用砲を搭載すべきと言ったのは予想外でしたが」
信煕と原が開発当時を回顧し、拡張性のある車体の重要性を再認識した。空中を縦横無尽に機動するため、切り詰めた設計をしないと一線で戦えない航空機(特に戦闘機)とは異なり、戦車は余裕のある設計の弊害が少ないため、このような思想が成り立つのである。
「私は20年戦える戦闘車を作らせるつもりだったんですよ。でも実際には持つか怪しい感じじゃないですか。そのあたり考えても、戦場では最強の存在として君臨し、それ以外の不便は甘受する重戦闘車としての運用だけを考えるのではなく、使い勝手の良い中戦車としても使えるように設計した方がいいのです」
「なるほど……わかりました、要目及び設計の変更を受け入れましょう。しかし、変えるとしてもどこをどのように?」
日本産業側も納得し、要目を変更することになった。あとは、どこを変えるかである。
「そうですね……これでどうでしょうか」
日本産業 試製重戦闘車 山階案
車体長5.5m
全幅2.6→2.9m
全高2.5m
戦闘重量:20.0→30.0t
乗員数:5名(運転手、車長兼無線手、砲手、装填手×2)
主砲:十年式十二糎加農砲→試製九七式十糎車載砲(ただし、将来的には十二糎加農砲に換装できること)
口径:120→105mm
砲身長:5.4m→4.0m(45→40口径)
砲口初速:825→650m/s
貫通力
248→155mm@100m、186mm→120mm@500m(九一式徹甲弾)
(設定なし)→210mm@100m、280mm@500m(九四式穿甲榴弾)
装甲
砲塔正面:105mm
砲塔側面:40→75mm
砲塔天蓋:25→75mm
砲塔背面:40mm
車体正面
上部:75mm20°
下部:90mm50°
車体側面
上部:40mm150°
下部:75mm90°
車体背面:13→40mm90°
車体上面:25→40mm
車体下面:25mm
エンジン:帝国人造繊維"C099B" 強制ループ掃気2ストローク強制空冷水平対向8気筒(ただし、将来的にはV型12気筒エンジンへ換装できること)
最高出力:326hp/2600rpm
最大トルク:100.0kgm/1600rpm
最高速度:38km/h
「またずいぶんと夢のような車だが……山階がいけるというのなら作れるんだろうな」
「少なくとも1両は作れると思います。量産できるかは日本産業さんの腕にかかっていますが……」
「……いや、どうにかできると思います。やりましょう」
陸軍の反応はよく、日本産業も量産を請け負った。かくして日本初の重戦車、いや第一世代主力戦車計画が始められることになったのである。
「しかし山階さん、全幅を広げたということは、今より大きな砲塔を積むということですよね。でも全長は据え置きとなっていますが、できるんですか?」
会議を終えた後、耀子は出口へと歩きながら日本産業の担当者からそのような質問を受けた。
「全幅を広げたからこそできるんですよ。簡単に言えば、パワーパックを横置き……車体に対して、出力軸が垂直になるように配置します」
「パワーパックを横置きですか……配管の取り回しとか、大丈夫ですかね」
インテークパイプやエキゾーストパイプの取り回しがやり直しになるため、担当者は不安を口にする。
「それはあとで図面を引いてみればいいだろう。無理と分かったら直ちに陸軍さんに報告して、対応を協議すればいいさ」
「日本産業さん単独だったら無理かもしれませんけど、今回は私がケツを持ちますので大丈夫です。むしろ、どうにかしようとしてギリギリになってから『やっぱ無理』と言われる方が、かばいきれなくなりますよ」
「そうですか……わかりました、山階さんを信じます」
実際のところ、この担当者の心配は杞憂に終わり、日本産業が独自に研究を進めていた分、試作車はスムーズに設計が進んだ。そして十二年式中戦闘車の「最終砲」となる九七式十糎車載砲とともに審査され、特に問題が起こることもなく正式採用が決定したのである。
というわけで、この世界の日本軍にもついに重戦車が制式化されました。これが活躍する日が来るのかどうかは、また今度ということで。
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