【閑話】俺は懐かしの玉ねぎが好き
1か月ぶりの更新ですみません。おフランスの重戦車はどんな奴なのでしょうか。
欧州大戦で、日本が持ち込んだ歩兵戦闘車は絶大な威力を発揮した。
フランス軍が何度挑んでも突破することがかなわなかったドイツ軍の塹壕線を貫き、パリ前面にまで迫っていた彼らの退路を遮断、降伏に追い込んだのである。
「これからは歩兵戦闘車の時代だ!」
「塹壕戦は終わりを迎え、歩兵戦闘車の突撃と浸透突破が戦場の趨勢を決めるのだ!」
列強の軍隊はこぞって歩兵戦闘車の大火力化・重装甲化を推し進め──日本ですら、日野熊蔵などが超重突撃車の図面を引いたくらいである──そして現実にぶち当たった。
「デカ過ぎんだろ……」
「重過ぎィ!」
「身を護るってレベルじゃねえぞ!」
1個分隊+αを載せようとすると、どうしても車体が長くなってしまう。このため、重量が過大となりがちで、特に側面装甲の厚みを増やすことができなかった。敵陣深くまで入り込み、側面攻撃を受けやすいこの車種では致命的な弱点である。
鷹司信煕・耀子兄妹はこれに最初から気づいており、日本は「重突撃車」のトレンドには付き合わず、戦車の開発とその強化に舵を切ったのだ。当時、他国突撃車の「惨状」を見た耀子は
「あの人たちは突撃車という名のデパート……百貨店を建てる気なの?」
とコメントしたと、のちの調査で判明している。既にこの世にはない筆髭の名言を意識していたことは言うまでもない。
さて、列強は熱心に歩兵戦闘車の重武装・重装甲化を推進したわけだが、どんなに頑張っても戦車には勝てないことがロシア戦争でわかってしまった。これで各国とも日本と同様に戦車の開発をはじめ、国によっては重戦車を開発したところもあったというわけである。その成果が今、ドイツ反共義勇軍に牙をむいていた。
BDR B2B
車体長5.5m
全幅3.1m
全高2.5m
戦闘重量:23.9t
乗員数:5名(運転手、車長、無線手、砲手、装填手)
主砲:Canon de 90mm CA mle 1926 mod.1936
口径:90mm
砲身長:40口径
砲口初速:750m/s
装甲貫通力:135mm/90°@100m、125mm/90°@500m
装甲
砲塔正面:80mm
砲塔側面:80〜60mm
砲塔天蓋:20mm
砲塔背面:60mm
車体正面:60mm25~35°(曲面)
車体側面:60mm90°
車体背面:20mm25~35°(曲面)
車体上面:20mm
車体下面:20mm
エンジン:パナール 機械式過給水冷60°直列6気筒4ストロークスリーブバルブ
最高出力:350hp
最高速度:35km/h
「G1B……」
ドイツ軍と撃ち合っているB2Bを砲隊鏡で見たミカは、前世で見たよく似た見た目の戦車を思い出す。前世で見たG1Bは正面装甲が段付きになっていてまだ戦車に見えたが、このB2Bは背面装甲と同様に傾斜のきつい曲面の一枚板になっていたため、余計鏡餅みたいな見た目になっていた。
「車長、なんか見えましたか?」
「日本の鏡餅みたいな戦車が6両いる。車体は傾斜がきつそうだから、砲塔の防盾脇をHEATで狙おうか」
「了解ですっ」
自車の砲手とそんなやり取りをした後、中隊全員にも同じ内容を伝達し、ミカ中隊はドイツ義勇軍中戦車を一方的に殴り飛ばしているフランス義勇軍重戦車を攻撃する。
「放て!」
距離1km前後から放たれた九四式穿甲榴弾は初速510m/sで山なりに飛翔した。あるものは狙い通り砲塔正面防盾脇に命中し、またあるものは車体正面上部や誘導輪に命中する。
「よくやった、あいつもあれでおしまいだ」
少なくともミカ車の砲弾から発生した極超音速のメタルジェットは、少し傾斜した80mm装甲をやすやすと貫通。そのまま砲塔内に置かれていた即応弾薬を誘爆させ、車内の乗員を全滅させた。
≪おい! あいつまだ生きてるぞ! 全速後退!≫
しかし、すべての車両が一発で撃破されたわけではない。当たり所の問題で致命傷を負わなかった車両はチベット義勇軍戦車にも反撃を開始する。
≪車体を抜かれた! 生き残りで脱出する!≫
≪砲塔でなんか弾いた! やばそうな音がした!≫
元は対空砲である90mm砲の威力はすさまじく、十二年式中戦闘車二型改といえど車体正面装甲では抗堪できなかった。
砲塔正面であれば抜かれはしないものの、もっと距離を詰めたら主砲が壊れるなどの不具合が発生するかもしれない。
≪くぼみや瓦礫で車体を隠して! こっちのHEATは通じます! このまま押しとおりましょう!≫
ミカはダックインするように指示を出しつつ攻撃を継続させる。
≪女子供ばかりに戦わせるな! 対空砲隊も攻撃を続行しろ!≫
ドイツ軍も、わざとチベット側に聞こえるように対空砲を前面に押し立てる。いくら重戦車と言えど、先進的な砲弾と数の暴力には勝てず、やがてこのフランス義勇軍部隊は降伏。ドイツ軍とチベット軍はさらに奥地へと進撃し、想定よりだいぶ早く、南部のフランコ隊と合流することに成功した。
「貴殿がカヤバ大尉か」
「はい、そうですが……」
戦闘後、鹵獲したB2Bをミカが眺めていると、ドイツ語訛りの英語で話しかけられた。
「ドイツ義勇軍司令官のハインツ・グデーリアンという。先ほどはわが軍の戦果拡大を大いに助けていただき、大変ありがたかった。我が軍を代表して、礼を言わせてほしい」
「あ、はあ。ありがとうございます……」
突然のビッグネームの来訪に戸惑いながらも、ミカはグデーリアンと固い握手を交わす。
「わがドイツ軍では、機動力をもって敵軍を翻弄し、その能力を封殺することが肝要であると考えている。しかし少々見込みが甘かったと言わざるを得ないのかもしれんな」
「そうですね。このような重戦車は、確かに攻勢戦闘では足が遅くて敵軍に対応する時間を与えてしまいます。しかし『対応できたところで対抗できない』火力や防御力というものは、単純に強力です」
前世のトーナメントでも、AMX-13 90によるラッシュは確かに確かに強力だった。しかし、相手がIS‐3の群れだったりすると殺し切ることができず、逆転負けを喫することもよくある。そんなこの前見た「前世の夢」を思い返しながら、ミカはコメントした。
「今回は、それを危うく活かされてしまうところだった、というところかな」
「だと思います……ああ、でも」
何かを思いついたミカは、言葉を付け加える。
「私も、あの状況で迂回突破を選択することには賛成でしたし……私たちは同じ国粋派側の義勇軍なんですから、お互いの助力を期待して当たり前だと思うんです」
「社会主義者と共産主義者と無政府主義者がにらみ合っている共和派より、各勢力が概ね円満な国粋派の方が、団結力では優位に立ちやすいからな……ありがとう、少し、救われた気分だ。貴殿とはこれからも戦場に立ちたいものだな」
「こちらこそ」
そう言ってミカはニコニコと微笑み、グデーリアンは照れくさそうに苦笑した。
というわけで、クソみどりの筆者ですら、勝率60%近くを記録できるつよつよ戦車が現実に降臨しちゃったものの、神modderの開発した戦車を駆るスパユニの指揮の前に壊滅したお話でした。
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