鬼灯みたいに赤い欧米
連休中暇なので更新します。先ほど新作の方も更新しましたので、そちらもお楽しみいただけると幸いです。
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1936年某日、鷹司邸。
「有名人は辛いねえ、信輔お兄様」
「いやほんと、もうあんなことは肝が冷えるからやめてね本当に」
少し前までマスコミの取材攻勢がすごかったことを耀子が愚痴ると、二・二六のように悪目立ちしないでほしいと信輔が苦言を呈した。
「やらなくて済むならやりたくないですよお」
(この調子だとまたやるだろうなあ……)
心底うんざりした様子で耀子は答えるが、芳麿と信輔はまた似たようなことが起こるような気がしてならない。もちろん、この賢い妹(妻)は、そうならないように立ち回るだろうとも思うのだが、彼女の思惑だけで世界のすべてが回るわけではないのだ。
「とはいえ、世界的には、そういう物騒なことを好む連中が政権を握り始めてますから……」
欧米の主要国で極左政権が誕生しつつあることを、芳麿が心配そうに暗喩する。
「スペインなんて内戦を始めちゃいましたからね」
某ゲームでは時報の一つとして親しまれているスペイン内戦が、今年始まっていた。しかし、その戦況は史実とだいぶ異なっている。
「わが国としては共産主義者に乗っ取られている共和派より、ファシストの国粋派のほうがマシな気がするけど……」
「フランスが大規模に支援してるせいで、共和派が優勢なんですよね……史実ではどうだったの? 耀子さん」
信輔が頭を抱える一方、芳麿は史実の流れを耀子に確認した。
「史実でも首都マドリードを国粋派が初動で奪取できず、最初は共和派が優勢だったようです。しかし、国粋派は独伊から大規模な支援を受けられた一方、共和派はロシアからしか支援を受けれず、共産主義者と無政府主義者の内ゲバ……内紛が相次いだため、最終的に国粋派が勝利しました」
前世で散々やった某ゲームでは、バージョンによってスペイン内戦の結果がだいぶ異なっていたことを思いだす。ゲーム会社の苦労に思いを馳せながら、史実では国粋派が勝利したことを耀子は伝えた。
「で、その後国粋派はどうなったんだ?」
「何もしませんでした。ひたすら中立を守り、戦火に巻き込まれることもなく二次大戦をやり過ごしてます」
もちろん、たびたび独伊から参戦要求が来ていたのだが、フランコはこれをのらりくらりとかわしている。
「そうなると、やっぱり国粋派を支援すべきなのかなあ……」
「それが無難だと思いますよ。いつごろなのかは分かりませんが、ファシスト独裁国家から立憲君主制国家に回帰しますし」
「そうなると支援の規模が大事ですよね。今の戦況をひっくり返すとなると、武器だけの支援では厳しいでしょう」
共和派の内紛はまだ本格化していないし、コンドル軍団は結成されない可能性が高い。この傾いた天秤を力づくでも逆側に傾けるだけの対価が必要だ。
「事実上の相手は露仏ですからね。一次大戦……欧州大戦にいなかったヘタリア軍を蹴散らすのとはわけが違いますよ」
エチオピアのときは日英蔵合わせて1個旅団規模の増援でどうにかなってしまったが、近代戦の経験があるフランス軍や、つい最近戦争したばかりのロシア軍相手ではそうもいかないだろう。
「景気対策の公共事業はもう十分だし、今は産業振興にお金を使いたいんだよなあ……なんかいい手があるといいんだけどねえ、耀子さん」
「そうですねえ。うまいこと他の国も兵力を出してくれればいいんですけどねえ」
「……反共を名目にして、義勇軍を募るとか、どうかな」
山階夫妻が首をひねっていると、信輔が反共義勇軍という案を出した。
「それです! それで英独墺蔵にも戦力を出させましょう」
信輔のジャストアイデアに耀子が全力で乗っかる。こっそり巻き込まれている蔵が哀れだった。
「いやでも、このやり方はロシアを刺激しないかい? この前トロツキー率いる共産党が、政権を取ったばかりだろ?」
「刺激しないわけがないでしょうけど、これをきっかけにまた全方位で戦争をするほど愚かな指導者でもないですよ。ロシアで吹き荒れたアカ狩りから生き残り、フランスで辛抱強くシンパを育成して凱旋した油断ならない人ですからね」
「それに、今のわが国の兵器は他国の水準を大きく上回っています。もう一度戦争になったとしても、またボコボコにしてやるだけです」
信輔は慌てて懸念を表明するも、山階夫妻は杞憂であると押し切る。
「こ、国民の理解は……」
「既に二・二六事件を起こした青年将校には、社会主義思想の影響が見られたことが、具体例を挙げて公表されています。日本国民の間では社会主義思想に対する不信感が高まっており、反共を大義名分に掲げれば問題なく受け入れられるでしょう」
なおも信輔は抵抗するが、芳麿に言いくるめられてしまった。
「うぐぅ……」
「急ぎ、政府に根回しして立憲君主各国に反共義勇軍を呼びかけさせましょう。親族が社会主義者に襲われたお兄様の提案なら同情も買えるはずです」
その社会主義者に襲われた本人が、さも他人事のように信輔を煽り立てる。
「はあ……わかったよ。国粋派を支援する義勇軍を呼びかけられないか、横田君とかに掛け合ってみようじゃないか。でもさあ君たち、このくらい君たちだけで思いつく話だったんじゃないの?」
観念した信輔が、怪訝な顔をして夫妻にツッコミを入れた。
「いやいや、信輔お兄様から言い出してもらって、信輔お兄様の手柄になる事が重要なんですよ」
「僕が鳥の研究に集中するためにも、義兄様にはもっと政治的立場をあげていただいて、鳥学会に限らず学術界全体を守っていただければなと」
にこやかに答える2人に対し、信輔はため息をつくことしかできない。
本当は3人とも、例えば高等工業学校に女子を入学させるにはどうしたら良いのかとか、そういった話をしたいのは言うまでもなかった。
GWから新作の投稿を開始しています。いつもと少し毛色を変えまして、ファンタジー戦記を書いてみました。
辺境伯家の食客~山奥の領邦を見事に近代化する裏ワザ~
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いちいち理屈っぽいファンタジーがお好きなあなたにぜひおすすめしたい作品です。
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