小隼と大鷲-2
というわけで先々週の続きです。単発戦闘機VS双発戦闘機の宿命の対決、果たしてどちらに軍配が上がったのでしょうか。
また、もう1作の架空戦記も先週更新していますのでご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n5107io
書籍版発売中です。詳しくは活動報告をご覧ください。よろしくお願いします。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1980903/blogkey/3068396/
演習形式は4vs4の編隊空戦である。滑走路の中央から背中合わせに離陸し、所定の領域で高度3000mに到達するまで上昇した後交戦する、という流れだ。
「3000mまで上昇できた方から先に攻撃に移れるんですね」
「上昇力を競うために入れたルールなんだって。戦闘機として大事な要素だもんねえ」
離陸していく双方の機体を遠眼鏡で見ながら、耀子と文子が会話する。
「長元坊の方が離陸が早い……翼面荷重は同じくらいだって話だから、フラップの面積の違い?」
「加速力も違うから、その差も出ているんだろう。小山君、確か八七戦の方がプロペラは小さいんだったかな?」
「ええ、九三双戦のプロペラ直径は3.35m、八七戦のプロペラ直径は2.99mですから、プロペラの小さい八七戦の方が加速力に優れているでしょうね」
九三双戦も結局は双発機なので、航続距離を伸ばすために大きめの日本楽器製造製3翅プロペラを採用していた。一方、八七戦はより小径の2翅プロペラ──やはり日本楽器製造製である──を採用しており、エンジンが改良されて高出力になった3型では二重反転化して効率と加速のバランスをとっている。
「おー、上がっていく上がっていく……」
「やっぱり、一度離陸してしまえば狗鷲の方が若干早いかな……」
「このまま5分くらい上昇し続けるんでしたっけ」
「上昇率から考えるとそのくらいでしょうね。多分狗鷲側から攻撃すると思いますが、どうなるか……」
くるくると旋回上昇していく戦闘機たちを見ながら、演習の行方をかたずをのんで見守る耀子たちであった。
《くそ! 食らいつくのが精いっぱいだ!》
長元坊側編隊長の加藤建夫の耳に、僚機の悪態が聞こえる。大方の読み通り狗鷲の方が先に上昇を終えてこちらを攻撃してきたので、編隊の全機がこれを回避した。初撃で1人くらい欠けるとみていたので、これ自体は良いことであった。
長元坊側の作戦としてはこの初撃を躱した後に格闘戦に持ち込み、一撃離脱を繰り返されて主導権を握られないようにするつもりであったが、狗鷲側が主張した通り、本当に長元坊と旋回性能が大差なかったため、想定外の苦戦を強いられている。
《うまく味方の前に追い込んで落としてもらえ! 自分一人でなんとかしようとするな!》
1機の狗鷲を追いかけている2番機の後ろを警戒しながら、加藤は味方に檄を飛ばした。この世界の日本軍航空隊ではロッテ戦法の考え方がすでに広まっており、3機編隊から4機編隊への改編も行われている。
《高田ぁ! 右よけろぉ!》
《おわぁ!》
狗鷲側の1機に狙いを定めていた長元坊が味方からの無線で横転したところ、そのすぐ横をもう1機の狗鷲がかすめていった。狗鷲側も味方をおとりにして釣られた相手をもう1機で仕留めようと考えているのである。
(むっ!?)
加藤が後ろを見ると、自分を撃とうと射点につこうとする狗鷲が見えた。慌てて方向舵を蹴飛ばし、操縦桿を倒して難を逃れる。
(これにはついてこれないのか。どうやら横転性能ではこちらが勝っているらしい……なんとかこれを利用して敵の攻撃をやり過ごしつつ、味方との連携で落としていければ……)
そして、狗鷲側も似たようなことに気づくと、速度と馬力荷重の優位を生かしてひたすら攻撃し続け、長元坊側に主導権を握らせないように戦おうとし始めた。ここからは機体の性能差だけでなく、パイロットの我慢比べの様相を呈していくことになる。
「いやーあれを躱しちゃうかあ……」
「八七戦が粘りますねえ……」
加藤たちが死闘を繰り広げているころ、それを双眼鏡で見ながら、いい歳こいた女社長と国会議員は子供のようにはしゃいでいた。
「そこだ! いけ! ……うーん駄目かぁ」
《あー、狗鷲側2番機ー、撃墜ー、撃墜判定ですー》
「おおっと!?」
航空無線を傍受するために置いたラジオから、撃墜を知らせる審判員の声が聞こえる。慌てて耀子が空中を探すと、速やかに空域から離脱していく狗鷲が見えた。
「あれが落とされる瞬間って誰か見てました?」
「さっきのはですね、長元坊側の4番機を追いかけてたんですが、長元坊側3番機の目の前に誘導されて射撃されたような感じでしたね」
耀子が状況を聞くと、偶然見ていた小山から返事が来る。
「なるほど、疲れて後ろを見るのを怠ったんでしょうね」
「空戦が始まってからかれこれ30分ぐらいたってますし、そろそろお互いの疲労もたまってくる頃でしょう」
「狗鷲側は多少無理をしてでも攻撃し続けてましたし、その分疲労は大きいでしょうから……」
「同じ飛行連隊の隊員たちですから、練度はほぼ同じ。そうなるとこの勝負は……」
「長元坊の勝ち、ということでしょうね」
果たして、ギャラリーの予想通り、疲労で注意力が散漫になった狗鷲側がじりじりと押し込まれ、模擬空戦は3:1で長元坊側の勝利となった。とはいえ、パイロットの技量次第で簡単にひっくり返りうる結果であるとみなされ、空技廠では運動性向上のための研究が行われるようになったのだが、それはまた別の話。
とりあえずこんな感じかなあと思って書きましたが、空戦シムの経験がなく、正直自信がないです。Flyoutみたいなゲームが、マルチプレイやCPU戦に対応できるようになる日を待っています。
少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。