このころの日本の政治事情-1
小説に限らずいろいろ書いてて遅くなりました。申し訳ありません。
去年の終わりから新作の連載を始めています。
救国の輪廻RTA:実績「東洋の番人」~逆行転生RTSで日本をアジアの覇者にする最速戦略~
https://ncode.syosetu.com/n5107io/
本作とは直接繋がりは無いものの、やはり逆行転生知識チート仮想戦記ではあります。もしよろしければこちらもお楽しみいただけると幸いです。
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「はぁーいどうも! 帝国人造繊維代表取締役の山階耀子です!」
鷹司信輔邸、つまり耀子にとっては実家にあたる建物の一室で、耀子が人気配信者のように名乗りを上げる。
「帝国人造繊維秘書課長の佐藤文子です!」
「えーと、研究会筆頭常務委員の鷹司信輔です……?」
「立憲政友会の中島知久平です」
「あ、だめだ。このメンバー一人も突っ込みがいない」
耀子は中島が止めてくれるだろうと思って文子にも同様の口上をやらせたが、全員が乗ってきてしまい、空気が微妙になってしまった。
「耀子さんがやらせたんでしょ!」
他人事のようなセリフに思わず逆ギレする文子。
「えー、気を取り直しまして、本日は研究会の筆頭常務委員になった我が兄信輔と、現役時代から大変お世話になっている立憲政友会の中島先生を正式引き合わせつつ、昨今の日本の政治情勢を様々な視点から振り返っていただくコーナーとなっております」
「うん。そう聞いていたからこうして来たんだが……なんで耀子さんの会社の秘書がここにいるのかね?」
配信者口調をやめない耀子に対して、中島が疑問をぶつける。
「それはですね、まず、我々要人の身辺を、陸軍情報部がひそかに守っているというのは、中島さんならご存じですよね」
「ああ、海軍時代に向こうからコンタクトがあったし、耀子さんも警護対象だというのは知っているよ」
耀子が繰り返し父煕通に要望したこともあり、この世界の日本陸軍は史実よりはるかに強力な情報部を持っている。この関係で、諸外国による日本への陰謀事件も、史実より多数計画されていたのだが、陸軍情報部の奮闘により、表沙汰になるものは史実より少なくなっていた。
「うちの秘書課も、弊社上層部警護隊の側面があるのですが、実は陸軍情報部と連携して仕事をしているというのが最近発覚しまして」
「おおーすごいねー」
諜報機関と一企業の警備部門が一緒に仕事をしているのである。防衛産業にかかわる会社としては理想的な警備体制であった。それを警護対象である経営者が知らないのは、社内統制上問題ではあったのだが。
「それほどでもないです」
「やっぱり文子さんは敏腕だった。しかも謙虚にもそれほどでもないと言った」
「なるほど、つまり佐藤さんは今回、日本国内の治安について話すために来てくれたんだね」
機を逃さずネタをかぶせた耀子をスルーし、中島は文子が同席している意味を確認する。
「そういうことになります。と言っても、我々が知っているのは、耀子さんの警備に影響する範囲でしかないのですが」
「それだけでも十分すごいし、私って陸軍からそんな重要人物だと思われてたんだって、あの時はびっくりしたよ」
「それは兄として危機感を覚えるよ耀子さん……」
相変わらず庶民感覚が抜けない耀子を、信輔が珍しく心配した。
「前置きはこのくらいにして、本題に入りましょうか。まずは昨今の日本の有権者について、与党立憲政友会の中島先生、お願いします」
「君に先生って呼ばれるとなんかむず痒いな……まあいいや。とりあえず、私も議員としてはまだまだ未熟ものだが、日本の有権者というか、各政党の支持者層というか、そういうのの話をしようかなと思うよ」
そういうと中島はいったん緑茶──耀子が幼少期に鷹司家に紹介して以来、この家の茶葉は静岡県産のやぶきたである──で口を湿らせ、話を始めた。
「我が立憲政友会は、もともと伊藤博文が創設した「国家公党」だ。個人ではなく国家の利益になる政治をする政党というということで、体制側の味方をしやすい既得権益者層の支持を集めるような行動をよくとるところだった」
「それこそ、貴族院の研究会が立憲政友会と連携しているのも、そういった流れの中の一つということなんでしょうね」
中島の言葉に信輔が同調する。華族は国家によってその血統に地位を与えられている人々であるから、もろに体制側の人間とみなせるのだ。
「ただ、最近政治家になった私には、地主というより実業家というか、会社の部長クラス以上の人が多いように感じるんだよなあ……」
「第二次産業や第三次産業の人たちが増えているということですよね。国力が向上している証拠だと思います」
「そういわれてみると、わりと農地を見かけなくなりましたよね。東京だけじゃなくて、米沢とか相生とかの出張先も、行くたびに田んぼが工場とか百貨店とかに変わっています」
ぼやく中島に耀子が肯定的に反応すると、最近は日本のあちこちが都市化されていることに言及する。街で見かけるみすぼらしい人も、お金がなくて困窮している感じの小作人より、ひたすら疲れ切っていて身の回りのことに手が回っていない工場労働者のほうが多いようだ。
「統計的にも、第二次産業の従事者は明確に増えていて、特に東北と関東での伸びが大きいことがわかっているよ。帝国人繊本体はもちろん、その競合相手や取引先、下請け、孫請けといった企業が増えているのが原因で、こういった企業に小作人が転職して工場労働者に転換されたり、あるいは地主自身が工場の経営者になったりすることで、第一次産業の従事者は確かに減少傾向にあるね」
話題に関連して、信輔が以前見た統計データの知識を披露する。これを聞いた耀子は、この手の情報が兄から出てきたのを聞いて(すごい、お兄様がちゃんと政治家してる……!)と思ったが、さすがに傷つくだろうと思って口に出すのはやめた。
「現代戦を戦ううえで、第二次産業の生産力が非常に大切だからな。昔から国策で補助とかも出してきたし、比較的能力が安定しているのもありがたい。第一次産業は天候によって不作や過度の豊作が起こりうるからなあ。いちいち臨時の会議を開いて、対応を考えないとならん」
「食料自給率が減るのは痛いですけど、正直もともと我が国は平地が少なくて農業生産力のポテンシャルはたかが知れてますからね。それだったら、もっと高く売れる工業製品を開発して、売った金で外国から食料を買った方がいいと思っています。農業より商工業のほうが、末端の人々の生活も安定して、治安にも有利ですし」
現代日本を知っている耀子は、ハナから日本国内の農業振興を諦めており、近隣の清から食料を輸入すればよいと考えている。ただ、その清が1年以上中華民国と内戦をしており、国力が疲弊して輸入が滞ってきているので、ほかの輸入先を探しながら、国内農業の法人化と機械化を進める必要性も感じていた。
「んー、でも結局寄生地主が資本家に変わっただけなら、末端の労働者が苦しい状況は大して変わらないのでは? あの手の人たち、きっと給料すごく絞りますよ」
耀子に対して文子が疑問を投げかける。
「まあそうなんだけど、弊社は自分はもちろん、取引先に対しても常々福利厚生を充実させろって言って、あまりに酷いところは出禁にしてるじゃない?」
「巷では『帝国人繊系の企業に就職すれば、死ぬほど働かされることはない』と言われているみたいだが、そんなことをしていたのか……」
「一種の人材囲い込みのためですからね。どこもかしこも福利厚生が終わってる会社ばかりですから、給料そこそこでも、支援や手当を手厚くすることで簡単に学生の人気を集められるのです」
帝国人繊の福利厚生規定は令和の物を基準として作成されているため、世界的に見ても異常なほど手厚いものであった。耀子自身がそういう環境でないと働きたくない、というのもあるが、人が働きたくなるような待遇にし、性差による働きにくさを緩和しないと、新興財閥は四大財閥に人材面で勝ち目がないという現実もある。
「で、話を戻すと、今の庶民の間では、帝国人繊とかかわりの強い企業に人気が集中しているんだ。人々には転職の自由が認められているし、今は道路や線路もしっかりひかれているから、今の企業が嫌いだったら、さくっとやめて別の会社に就職できる」
「つまり、弊社の待遇が良いから、給与や福利厚生が不十分な会社は、従業員に逃げられてしまう……ってコトですか?」
中島の問いかけに対して、文子が恐る恐る回答した。
「そうなんだよ。政府からすればありがたい話だよね。民間の自助努力で、国民が勝手に豊かになるんだから」
「とはいえ、自助努力では限界もありますので、庶民の経済格差と、それに伴う治安の悪化を気にするのであれば、政府による介入が必要かと考えています。工場法を強化しつつ、範囲を労働全般に拡大して『労働基準法』とし、工場労働者のほかに小作農の保護も始めていかないといけないでしょう」
取引先を監督するのにも労力がかかるのである。国がこれを肩代わりしてくれるのなら、耀子や帝国人繊も苦労しなくて済むのだ。
「まあ、そのあたりは慎重に判断したいな。立憲政友会の支持者には、多かれ少なかれ打撃になるだろうし、単純に不景気の引き金になる可能性もある」
「そうですか……とりあえず、立憲民政党の支持者を切り崩したいときにでも考えてもらえたら」
この国の資本家はどうして目先の利益ばかり追いかけるのだろうか。耀子は、帝国人繊設立時に丁稚の待遇について揉めたことを思い出し、深く深くため息をついた。
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まえがきでも書きましたが、以下の新作もよろしくお願いします。
救国の輪廻RTA:実績「東洋の番人」~逆行転生RTSで日本をアジアの覇者にする最速戦略~
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