【外伝】反省の多い勝利
前の話にもラスト3行ほど追記してます。
書籍版発売中です。詳しくは活動報告をご覧ください。よろしくお願いします。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1980903/blogkey/3068396/
≪無理をしてでも押しきるんだ! 楽な戦いができてるのは俺たちだけだぞ!≫
宮崎繁三郎連隊長の檄が飛ぶ。エチオピア側左翼の砂狐中隊と、右翼の機動連隊は正面のイタリア軍部隊を圧倒しつつあるものの、逆に中央を守るエチオピア軍とイギリス歩兵連隊主力は兵力差により苦戦を強いられていた。両翼からの逆包囲に手間取れば、逆に中央を突破したイタリア軍に包囲されかねない。
「グラツィアーニだったか……? バドリオの戦いぶりから、イタリア軍は弱兵ぞろいだと思っていたが、少しはやる奴がいたようだ」
戦場をにらみながら、宮崎が独り言ちる。
「支援砲撃に合わせて航空攻撃を仕掛け、瞬間的に大火力をたたきつけたところで間髪入れずに突撃する。日蔵軍にこんなこけおどしは効かないが、ろくに訓練されていないエチオピア軍には効果覿面ってわけだ」
少し前にイギリス歩兵連隊本部からきた悲鳴のような救援要請を思い出す。肉壁にはなるだろうと思っていたエチオピア軍が踏ん張ることすらできずに次々と壊走し、想定以上に苦しい戦況であることを伝えてきていた。だが、今となってはイタリア側も同じ状況である。
「本当は乏しい物資を節約しつつ、弱兵が守っている中央をとにかく突破して、両翼の精鋭部隊を分断し、孤立させたいという狙いは間違ってなかった。グラツィアーニの誤りはただ1つ……俺たちの強さを見誤った。それだけだ」
宮崎の言葉通り、イタリアソマリア軍司令部は日蔵軍の戦力を見誤っていた。先述した通り、チベット軍の戦車は自分たちと同じ豆戦車だと思い込んでいたし、日本軍の歩兵戦闘車も、旧式の三年式戦闘車だと思っていたのである。だから、兵力に任せて押し込めば、両翼の日蔵軍を拘束しつつ中央のエチオピア軍とイギリス軍を突破できると思っていた。
そのため、右翼側が撃退されるばかりか、左翼側からも強引に反攻されるとは、まったく思っていなかったのである。
≪7号車、余り前に出すぎないで! せっかく火力勝ちしてるんだから、わざわざ相手の間合いに入らない!≫
無線でミカの指示が飛ぶ。あまりにも火力差があるため、無計画に前進すると戦車跨乗をしても戦車隊に歩兵が追い付かないためだ。
≪空襲ー!≫
「しつこいなあ……」≪対空見張り! 標的にされたクルマは絶対に足を止めないで!≫
イタリア側も手をこまねいていたわけではない。最初に飛ばした爆撃機を再出撃させたり、戦闘機に爆装させたりして、砂狐中隊を阻止するべく差し向けていた。
「まだだ、もっと引き付けて……放て!」
チベットから連れてきた対空自走砲小隊が、敵爆撃機に対して発砲する。3門の機関砲から分間300発放たれる40mm砲弾の一発が左翼を吹き飛ばし、敵機はきりもみしながら地面へと落下していった。
≪1機撃墜!≫
≪よくやった! あいつもあれでおしまいだ!≫
まだまだイタリア製軍用機の速度が低く──一品物のレーサーであれば日英とも戦える質の機体を作れるのだが、それを量産する工業力がないのだ──先ほどのように対空砲火でバタバタ落とされていることや、急降下爆撃機やロケット弾が整備されていないため、何とか空襲による被害は抑えられている。
「嫌な展開……やっぱり制空権は大事だなあ……」
戦場を見渡しながらミカがつぶやいた。
「もし、イタリアが日本やイギリスのように襲撃機を整備してたら、私たちはこんな派手に反撃できていなかった……偽装を解いて戦車壕から出たら、空から機関砲でハチの巣にされてしまうもの」
少し前に耀子が展示会で発表していた双発汎用機には、40mm機関砲で地上を攻撃する襲撃機型が存在し、無事に陸海軍に正式採用されている。また、イギリス軍も対気球用37mm砲を搭載した戦闘機を襲撃機に仕立て直して採用しており、制空権を喪失した状態でこういった近接支援機に攻撃されたら、戦車部隊は瞬く間に大打撃を受けることが日本やイギリスとの合同演習でわかっていた。
帝国人造繊維 NA32S 九三式襲撃機/哨戒機 1型
機体構造:低翼単葉、双胴、固定脚
胴体:エポキシ樹脂系GFRPセミモノコック
翼:ウイングレット付きテーパー翼、エポキシ樹脂系GFRP+AFRPセミモノコック
フラップ:スプリットフラップ(ダイブブレーキ兼用)
乗員:3
全長:11.0 m
翼幅:15.6 m
乾燥重量:5500 kg
動力
日本航空技術廠 寿 3型 OHV4バルブ強制吸気4ストローク空冷星型単列9気筒 ×2
離昇出力:1050hp
公称出力:800hp(ミラーサイクル運転時)
最大速度:400 km/h
航続距離
襲撃機:1000 km
哨戒機:2000 km
実用上昇限度:11000 m
武装:九二式対空機関砲(固定)×1、八年式航空機銃(旋回)×2
爆装:500kg
ウェストランド ワンダラー Mk.3 C.O.W.
機体構造:低翼単葉、固定脚
胴体:鋼管羽布張
翼:楕円翼、PA66系GFRPセミモノコック
フラップ:スプリットフラップ
乗員:1
全長:8.1 m
翼幅:11.6 m
乾燥重量:1450 kg
全備重量:2200 kg
動力:ブリストル "ジュピター Mk.XX" 強制吸気4ストローク空冷星型単列9気筒OHV4バルブ ×1
離昇出力:1050hp
公称出力:900hp
最大速度:490 km/h
航続距離:1500 km
実用上昇限度: 11500 m
武装:C.O.W. 37mm機関砲×1(機首固定1)、ヴィッカース0.5インチ機関銃×2(翼内固定2)
「今回はたまたまイタリアの軍備が整ってなかったから、うまいこと勝てそうだけど……今後はもうちょっと慎重に戦わないといけないかもね」
この後、イタリア軍主力はチベット戦車中隊と日本機械化歩兵連隊に退路を断たれて降伏。イタリアソマリア軍は壊滅し、エチオピア軍によるソマリアへの逆侵攻まで許してしまう。
ただし、その間にエリトリア方面は強引に押し込まれて、エチオピアでほぼ唯一の近代戦力である帝国親衛隊も壊滅。苦しい戦況の中、三国義勇軍は首都アディスアベバ防衛戦に臨むのだった。
書いてたら思ったよりもエチオピア側が大勝してしまい、エリトリア方面で負けててもソマリアを制圧してしまったせいで、エチオピアの戦意が折れませんでした。どうなるんでしょうね、これ。
少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。