どうしても一工夫したくなってしまうもの
モチベがいまいちだったので遅れました。今回の更新で終わらせるつもりだったのですが、分量が伸びたのでもう1話分お付き合いください。
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擲弾筒改良案の試験の後は、しばらく砲弾側改良案の試験が続いた。史実でメジャーなスリップリングを使う案や、G弾のように二重殻構造にする案、などが試験されたが、どれも帝国人繊グループはかかわっていない。粘着榴弾も発案者こそ耀子だが、砲弾の設計や試作には無関係だった。
「まあ、スリップリングのHEAT弾が一番無難ですかね」
「二重殻は製造費用が高いわりに貫通力は低かったし、粘着榴弾は新規開発した可塑性爆薬の製造設備を整える必要がある。概ね、山階の言ったとおりになったな」
信煕が試験を総括する。この結果だけ見れば、擲弾筒の改良は不要であり、スリップリング付きHEAT弾を正式採用すべきという結論が得られていた。
「でも、ここで試験を終わらせるわけではないでしょ?」
「そうだな。さっきの差込迫撃砲のように、奇抜な見た目でも有用な活用法が見つかる試作品があるかもしれない。成形炸薬弾用の新規擲弾発射機の試験は実施するぞ」
「それなら、これから出てくる擲弾銃がうちの本命なんで、ぜひ注目してください」
そんな会話をしている間に、やはり帝国人繊飛翔体開発課が試作した「擲弾銃」の試験が始まる。
「差込迫撃砲を肩に担いでいるが、まさかあのまま打つのか?」
「はい。あれなら擲弾筒よりはるかに直射しやすく、対車両戦闘に向いていると思います」
擲弾銃の構造は、史実の試製66mmてき弾銃とほぼ同じだ。RPG-7のようなロケット弾発射機ではあるのだが、よく見ると後端がふさがっており、発射の反動を受け止めるために駐退機を備えているのがわかる。この構造の場合、射手に反動が伝わってしまうが、後方に発射ガスを吹き出すことがないので閉所でも使用でき、初速も高めることができた。
試製五糎擲弾銃
砲口径:50mm
弾頭直径:75mm
砲身長:300mm (6口径)
全長:600mm
砲口初速:200m/s
重量:7kg(砲弾込)
有効射程距離:400m
要員数:1名
「……発射した瞬間射手の腕が跳ね上がったが、大丈夫か?」
「駐退機に御料車のショック……ダンパーの改造品を使ったので、ストロークが足りなくて底突きするみたいです。正式採用された暁には要改善ですね」
「おいおい……」
まったくの偶然だが、史実の66mm擲弾銃でも駐退機のストロークが足りず、同様の現象が起きたようだ。なお、銃口が跳ね上がるよりもさきにロケット弾は砲身から脱出しているため、明後日の方向に飛んでいくことはない。
「とはいえ、菅さんが欲しがってた個人で運用できる直射火力です。擲弾筒よりかさばりますが、威力も使いやすさも段違いですので、おすすめですよ」
「それはそうだな……とりあえず、試験した能登の感想を聞いてみるか」
耀子たちは個人携行火器の試験が終わった後、感想を聞いてみることにした。
「なかなか面白い試験でしたね。奇抜な見た目をしていても、見るからに失敗作って物はなくて、評価する側も歯ごたえがありました」
試験を担当した陸軍技術本部付の能登久は、ここまでの試験をそう評価する。
「対戦車弩も、つかえそうか?」
「使えるか使えないかで言ったら使えますよ。お値段は安いですし、操作も直感的ですから、中小国にばらまくにはもってこいだと思います。平和な時代なら採用しませんが、すぐ隣で内戦が始まりましたからね……」
つまり、応急的だが安価な兵器なので、よそに売る兵器としては有効であるという評価だ。
「そういう観点で行くと、擲弾銃は少し重厚長大過ぎでしょうか」
「あれは完全に一線級の兵器でしょう。他所に売るのではなく、自分たちで使うものです。正直、あれが出てきたせいで、擲弾筒用の穿甲榴弾を本当に用意すべきか迷っているぐらいですから」
能登がそんなことを言う。
「やはり、あの形態の方が対車両戦闘は容易だということか」
「擲弾筒の直射機能はおまけみたいなものですけど、擲弾銃や噴進砲は最初から直射するための火器ですからね。狙いの付けやすさが段違いです。」
噴進砲は陸軍技術本部が試作したロケットランチャーで、こちらは後方に発射ガスが噴き出るオーソドックスな構造をしていた。ただし、擲弾銃のように弾頭が発射機からはみ出す構造になっていないため、威力面で帝国人繊の擲弾銃に劣っている。
「その擲弾銃と噴進砲では、どちらを採用すべきだと思うか」
「うーん、まあ擲弾銃の方ですかね。噴進砲は反動がほとんど来ないのがありがたいんですが、タコツボみたいなところから撃つには向いてないですし、擲弾銃と比べて弾道も山なりで精度も見劣りがするんですよ。ただ、どちらにも言えることですが、砲弾が煙を引きながら飛んでいくので、どこから撃ったのかまるわかりになるのはまずいかもしれませんね」
「あーそういわれてみれば確かに」
史実のパンツァーファウストやカールグスタフが無反動砲なのも、ロケット砲では射手の位置が暴露されやすいことを嫌ったからなのかもしれないと耀子は思った。
「そうそう、擲弾銃というと、あれをもっと大きくしたのを帝国人繊さんが用意してくれたんですよね。これから試験するのが楽しみですよ」
「直射できる歩兵砲が必要とのことでしたので、飛翔体開発課とくろがねに頑張って作ってもらいました。野山砲を前線に持ってきやすくするアイデアも別にご用意しましたので、ご期待くださいませ」
「ん? 野山砲を前線に持ってきやすくするアイデア?」
そんなものは要求してたかなと、信煕が聞き返す。
「野山砲での直射はこれまでも行われていたじゃないですか。ただ、砲が重すぎて気軽に前線まで持っていけなかったので、歩兵の方が下がって敵を誘導する必要があったでしょ?」
「それが大変なので、逆に砲側から近づければありがたいということだな。だが、あの放列砲車重量で何tもあるものを前線に持ってくるって、それこそ自走砲くらい高級な兵器しかないと思うが」
その自走砲をいきわたらせるだけの金がないからこそ、始まった審査であるともいえた。
「ええ。ですので、砲車に自走してもらうことにしました。車輪で走るものなら、うちでも設計経験がありますからね」
「ほうほう、それはなかなか楽しそうです。重くなければなおよし、ですね」
耀子の目が怪しく光る。信煕は1つの可能性に思い当たり、こいつまじでやったのかと呆れた。
世界各国で使われていたのでそんなに目立ってないですけど、次回出てくるあれも珍兵器の類だと思うんですよ。
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