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あらぶるイタリア

ようやくいろいろ落ち着いたんですが、展開が難しすぎるのでゆっくりやらせてください。


書籍版発売中です。詳しくは活動報告をご覧ください。よろしくお願いします。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1980903/blogkey/3068396/

 この世界線での世界恐慌で最も大損した列強は、もちろんアメリカ合衆国だろう。しかし最も翻弄された国はどこかと言えば、それはイタリアかもしれない。

 (ドイツにも言えることだが)イタリアは小さな諸王国をまとめて併合することにより成立した国である。この過程でのごたごたによって、イタリア系小国が治めていた土地であるのにもかかわらず、隣国の領土になっている地域が存在していた。特にオーストリア領のそれは「未回収のイタリア」と呼ばれ、


「欧州大戦の時の政府が腰抜けで、三国同盟なんか気にせず協商側で参戦しなかったから、未回収のイタリアは今もオーストリアの物になっているんだ」


 などと批判するものがここ最近特に多くなっている。


「そんなこと言ったらフランスにもサヴォイアをたかられてるじゃない。そっちはなんで気にならないのかしらね」


 イタリアンデザインを好み、ダンテ・ジアコーサを敬愛するものの、イタリアの歴史はあまりよくわかっていない耀子は、そんなことをぼやいていたようだ。


 さて、隣国との間に意外と確執があるイタリアは、ブロック経済化の進む世界に対して完全に対応が遅れてしまっている。というのも、イタリア国内で意見が対立しているからだ。


「ドイツはオーストリアとマルクブロックを組んで、ブロック外の国に対する関税を引き上げるそうだ。我が国もマルクブロックに参加し、今食い込めているドイツの市場を失わないようにする必要がある」

「オーストリアと組むなんてありえない。ここはフランスのフランブロックに参加するべきだ」

「フランスは我々と同じ農業国だ。競合する国と組むことこそあり得ないだろう」

「わが国固有の領土を不当に占拠している国と組む方がありえん!」


 オーストリアの友達(ドイツ)とイタリアは友達でも、オーストリアとイタリアが友達ではないので、大体そんな感じで議論が発散してしまうのである。そしてもう1つ、イタリアを代表するあの企業が困っていた。


「今我が国にどこかしらのブロックに入られたら、500(チンクェチェント)のエンジンコストが大分あがってしまう……」

「ライセンス生産に向けて準備中とはいえ、設備が整って工員が熟練するまでにはまだ時間がかかります。あの極小で高性能なエンジンだからこそ500の設計は成立しているのに……」


 上司と二人で頭を抱えているのは、FIATの天才エンジニアにしてデザイナー、ダンテ・ジアコーサである。史実前倒しで彼が設計したFIAT 500は、この世界線だと帝国人繊が設計した2ストローク単気筒エンジン(バランサーシャフト付き)を輸入して載せていた。このため、もしイタリアも、日本が所属することになったスターリングブロック以外のブロックに入る場合、日本から輸入しているエンジンに高額の関税がかかってしまう。このため、それを500の販売価格に転嫁しなければならなくなるのだ。


「……スターリングブロックに入れる可能性は……ないよなあ……」

「インドやオーストラリアの農業と競合しますんで無理でしょう……競合相手を市場から締め出して、自国産業を保護するためにブロックを作るんですから……」


 そう考えると、イタリアの辛い現実が見えてくる。どこのブロックに行っても、有力な競合相手が存在するため、自力でブロックを立ち上げるしかないのだ。しかし、ブロックを組むために必要な市場規模が、戦争をしていない分史実よりましとはいえ、やっぱり狭すぎるのである。


「……不足している生産設備は、もう新造するんではなくて、帝国人繊と三共内燃機を拝み倒して中古品を移設しましょう。どうせ不況で販売台数は減少していますから、新品じゃなくてもある程度の時間は稼げるはずです」


 ローマモーターショーまでの500は簡素化が行き過ぎていたため、同じエンジンを載せていてより装備や加飾が充実している帝国人繊のウィズキッドよりも人気がなかった。しかし、カーオブザイヤーをウィズキッドに奪われた反省を生かし、豪華版グレードの「L」や、リアオーバーハングを延長し、エンジンを90°寝かせてステーションワゴン化した「ジャルディニエラ」を投入することで、翌年には名実ともにイタリアで最も人気のある車種になっている。


「その間に、国内企業に改めて設備を作らせて、それに更新するというわけか……それが良さそうだな。チームの皆を集めて調整しよう」


 とりあえず、ジアコーサの発案で500のエンジン問題は何とか解決し、FIATは500の生産を継続することができた。三共内燃機も古い設備を換金し、新しい設備に更新できたので、お互いに利益のある取引ができたのである。


 しかし、イタリアという国は結局世界恐慌への対応で右往左往し、国政が停滞したため国民の間には不満が鬱積することとなった。こうした状況をうまく利用し、大衆の支持を集めて勢力を伸ばしたのが、ムッソリーニの国家ファシスト党だったのである。

 

少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。

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挿絵(By みてみん)

本作世界のチベットを題材にしたスピンオフがあります。

チベットの砂狐~日本とイギリスに超絶強化されたチベットの凄腕女戦車兵~ 

よろしければご覧ください。
― 新着の感想 ―
[一言] イタリアとドイツとオーストリアでギャグマンガ日和ですかw はてさて、みんな目が死んでる未来になってしまうのか否か。
[気になる点] ドゥーチェなら何でもありだ。彼なら英帝とだって日本とだって握手するさ・・・・・・
[良い点] …耀子さんが暗躍しそうだなぁと思った。 [気になる点] イタリア人はころっと忘れている事をブリカスが忘れるとは思えん。 [一言] イタリアは諸々事情があって未回収領土の問題とかで混沌として…
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