グジャラート
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「芳麿さん、申し訳ないけど、一緒にグジャラートに来てくれない?」
「グジャラート……えーと、インドの西側の半島だったかな……?」
唐突にマイナーな地名を出された芳麿は、事態が飲み込めていないようだ。
「あ、ごめん。実は、この前決まったインド投資事業の話で、うちもインドに工場建てないといけなくなっちゃって……」
「ああ、イギリス連邦諸国に関税を優遇してもらうかわりに、インドに投資するという協定か。目標額に投資額が届かないと、関税が上がってしまうという」
「そうそれ。弊社、日銀の資本が入ってるから断れなくてさ〜」
忘れがちだが、帝国人造繊維は半官半民の企業であり、政府に多少の制御権がある。このため、耀子としてはこの時代のインド投資には気が乗らなかったのだが、今回はどうしても断りたい理由もなかったので、政府からの要求を断らなかったのである。
「なるほど、それは大変だね……しかし、何故イギリスはインドへの投資を対価として要求したのかな」
「一番大きいのは、殖産興業によってインドの雇用を確保し、政情を安定させるためだと思います。もともと、我が国やイギリスから、安価な絹織物や化繊製品が流入して地元の製品が駆逐されていますから、慢性的に失業者が発生しているのです」
これは史実でもあったことで、機械化によって安価に生産された日英製の絹織物が、インドの絹織物産業を壊滅させている。この世界ではそこに化学繊維まで入ってきているのだから、状況はさらに悪いだろう。
「たしかに、衣食足りて礼節を知るともいうからね。満たされないからこそ、過激な思想にも走るというものか」
「これに関連して、日本企業に程よくお金を使わせてダンピング……叩き売りをする余裕をなくさせることで、イギリスの産業を保護しようとしているとも考えられます。次はお前だ、みたいな」
景気に差がある現状では、日本企業のほうが体力がある場合が多い。このため、下手に関税を安くしたばっかりに、日本企業から安値攻勢を仕掛けられて自国産業が壊滅することをイギリスは恐れているのだ。
「日本企業が体力に任せて叩き売りを行い、イギリス企業を駆逐して市場を独占する……僕らが生まれた頃だったら夢のまた夢みたいな話だったのに、今は現実的な選択肢になりそうなんだね……」
「思えば遠くまで来たもんですよ。まあ、時の運がたまたま味方した、という所もあるんですけどね、この話は」
耀子はため息をついたあと、どこか遠くを眺めるような仕草をする。そろそろ前世より今生のほうが長く生きたことになりそうで、色々思うところもあるのだった。
「いずれにせよ、耀子さんはよくがんばってるよ……話は変わるけど、何故グジャラートに行くんだい? 工場をそこに立てるのかな?」
「はい。首都デリーから一番近い海岸線があのあたりなんです。入江があるから港も作りやすそうだし、地形も平坦だから工業化も進めやすそうなんですよね」
「なるほど、話を聞く限り、理想的な立地みたいだね」
「おまけの情報として、昔から他の地域からの移民が多い土地みたいですから、よそ者を受け入れやすいかも……なんて期待もあります」
実際に、現代のグジャラート州はインド有数の工業地帯であり、日本からも自動車工場が進出した実績もある。彼女はこれを念頭に、どうせインドに進出するならグジャラートが良いと考えていた。
「なるほどね。それでようやっと本題なんだけど、なぜ僕も来てほしいのかな?」
「環境アセスメントのためですね」
「環境アセスメント……」
この時代は一般的ではない概念のため、芳麿にはよく伝わっていない様子である。
「工場って、山野を切り開いて作ることが多いじゃないですか。当然、そこにいた動植物も影響を受けますよね?」
「その話をするということは、そういった環境破壊の影響を見積もり、工場などの建設の参考にすることを環境アセスメントって呼ぶんだね?」
「そういうことです。ちょうど身近なところに生物の専門家がいるから、お願いしようと思って」
「……わかった。僕としても貴重な動物の生息地を圧迫するのは本意ではないから、協力するよ」
このような経緯があり、三共内燃機(帝国人繊開発品の製造を引き受けている、三共の二輪車部門)グジャラート工場は環境アセスメントを実施した上で建設が行われることとなった。工場自体は、鈴木俊三が開発したエンジン付き自転車「ダイヤモンドフリー号」を生産する小規模で単純なものだったが、自然豊かな場所に工場を建てるときのノウハウを得ることができたのである。
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