表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/258

グジャラート

推しの某液体推進系Vtuberが、コラボカフェ出典の権利をかけてRTを欲しています!

納期は4/30!明日までです!私と一緒に応援してください!

「芳麿さん、申し訳ないけど、一緒にグジャラートに来てくれない?」

「グジャラート……えーと、インドの西側の半島だったかな……?」


 唐突にマイナーな地名を出された芳麿は、事態が飲み込めていないようだ。


「あ、ごめん。実は、この前決まったインド投資事業の話で、うちもインドに工場建てないといけなくなっちゃって……」

「ああ、イギリス連邦諸国に関税を優遇してもらうかわりに、インドに投資するという協定か。目標額に投資額が届かないと、関税が上がってしまうという」

「そうそれ。弊社、日銀の資本が入ってるから断れなくてさ〜」


 忘れがちだが、帝国人造繊維は半官半民の企業であり、政府に多少の制御権がある。このため、耀子としてはこの時代のインド投資には気が乗らなかったのだが、今回はどうしても断りたい理由もなかったので、政府からの要求を断らなかったのである。


「なるほど、それは大変だね……しかし、何故イギリスはインドへの投資を対価として要求したのかな」

「一番大きいのは、殖産興業によってインドの雇用を確保し、政情を安定させるためだと思います。もともと、我が国やイギリスから、安価な絹織物や化繊製品が流入して地元の製品が駆逐されていますから、慢性的に失業者が発生しているのです」


 これは史実でもあったことで、機械化によって安価に生産された日英製の絹織物が、インドの絹織物産業を壊滅させている。この世界ではそこに化学繊維まで入ってきているのだから、状況はさらに悪いだろう。


「たしかに、衣食足りて礼節を知るともいうからね。満たされないからこそ、過激な思想にも走るというものか」

「これに関連して、日本企業に程よくお金を使わせてダンピング……叩き売りをする余裕をなくさせることで、イギリスの産業を保護しようとしているとも考えられます。次はお前だ、みたいな」


 景気に差がある現状では、日本企業のほうが体力がある場合が多い。このため、下手に関税を安くしたばっかりに、日本企業から安値攻勢を仕掛けられて自国産業が壊滅することをイギリスは恐れているのだ。


「日本企業が体力に任せて叩き売りを行い、イギリス企業を駆逐して市場を独占する……僕らが生まれた頃だったら夢のまた夢みたいな話だったのに、今は現実的な選択肢になりそうなんだね……」

「思えば遠くまで来たもんですよ。まあ、時の運がたまたま味方した、という所もあるんですけどね、この話は」


耀子はため息をついたあと、どこか遠くを眺めるような仕草をする。そろそろ前世より今生のほうが長く生きたことになりそうで、色々思うところもあるのだった。


「いずれにせよ、耀子さんはよくがんばってるよ……話は変わるけど、何故グジャラートに行くんだい? 工場をそこに立てるのかな?」

「はい。首都デリーから一番近い海岸線があのあたりなんです。入江があるから港も作りやすそうだし、地形も平坦だから工業化も進めやすそうなんですよね」

「なるほど、話を聞く限り、理想的な立地みたいだね」

「おまけの情報として、昔から他の地域からの移民が多い土地みたいですから、よそ者を受け入れやすいかも……なんて期待もあります」


 実際に、現代のグジャラート州はインド有数の工業地帯であり、日本からも自動車工場が進出した実績もある。彼女はこれを念頭に、どうせインドに進出するならグジャラートが良いと考えていた。


「なるほどね。それでようやっと本題なんだけど、なぜ僕も来てほしいのかな?」

「環境アセスメントのためですね」

「環境アセスメント……」


 この時代は一般的ではない概念のため、芳麿にはよく伝わっていない様子である。


「工場って、山野を切り開いて作ることが多いじゃないですか。当然、そこにいた動植物も影響を受けますよね?」

「その話をするということは、そういった環境破壊の影響を見積もり、工場などの建設の参考にすることを環境アセスメントって呼ぶんだね?」

「そういうことです。ちょうど身近なところに生物の専門家がいるから、お願いしようと思って」

「……わかった。僕としても貴重な動物の生息地を圧迫するのは本意ではないから、協力するよ」


 このような経緯があり、三共内燃機(帝国人繊開発品の製造を引き受けている、三共の二輪車部門)グジャラート工場は環境アセスメントを実施した上で建設が行われることとなった。工場自体は、鈴木俊三が開発したエンジン付き自転車「ダイヤモンドフリー号」を生産する小規模で単純なものだったが、自然豊かな場所に工場を建てるときのノウハウを得ることができたのである。

少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
挿絵(By みてみん)

本作世界のチベットを題材にしたスピンオフがあります。

チベットの砂狐~日本とイギリスに超絶強化されたチベットの凄腕女戦車兵~ 

よろしければご覧ください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 環境破壊の実態を知る転生者の立場が活きる話ですね。 ロンドンスモッグや日本の4大公害しかり、このままだと自分の知る歴史をなぞるだろうと思い何か行動したくなるの共感した。 ふと考えると人間…
[良い点] エンジン付きの自転車かぁ…たしかもうあの人居るっけ?とりあえずカブから作ってみるのも良いかもですね、満州の清王朝と違ってガソリンは輸入しないとだから不利かもだけども。 [気になる点] 独立…
[気になる点] 結局インドに進出するのはおさむチャンの会社かいな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ