見ろ! 資本がガンダーラへ流れていくぞ!
何とかひねり出しました。よろしくお願いします。
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イギリスの行動は素早かった。まずは国会で関税の大幅な引き上げについてわざと目立つように議論を始め、イギリス連邦への輸出で外貨を稼いでいる国々の関心を集めたのである。当然、その中には日本も含まれていた。
「我が国の企業は未曽有の不況に晒され、外国企業との競争で苦戦を強いられている! 関税を引き上げ、国内産業を保護すべきだ!」
「そうだそうだ!」
「……まあ、特に長い付き合いがあって、我が国からの輸出品に不利益を与えていない地域ならば、関税の免除を考えんでもないがな」
これらの発言から、イギリス勢力圏もまた、ドイツ・オーストリアやフランス・イタリア・低地諸国でそれぞれ議論されているブロック経済に踏み切るのではないかとの見方が強まった。
「困ったぞ。どんどん製品の輸出先が減っていっていきそうだ」
「内需だけで回すのは……清を入れても、まだまだ需要が回復するには時間がかかるぞ……?」
景気は国民の心理に大きな影響を受ける。いくら貨幣を発行しても、使ってもらえなければ意味がないのだ。
「そんなときに、イギリスからはそんな提案が来たということか」
大蔵大臣に電撃復帰していた高橋是清は、外務大臣の本多熊太郎と、内閣総理大臣の横田千之助の前で笑顔を崩さずに言った。
「英国連邦と同様の関税優遇を日本に対して行う。その代わり、今後5年間、インドに対して投資を行うことを義務付ける。こんな美味しい提案はなかなかないぞ、高橋さん、横田さん」
「うーんしかし、相手はあのイギリスだからなあ……高橋さん、実際どうかな」
興奮気味に話す熊太郎に対し、横田は懐疑的な態度をとる。
「二人とも、今のインドの情勢を良ーく思い出してごらん?」
「情勢……情勢……少し前に、独立運動が盛り上がってはいたが、今は不況でそれどころではないはず……」
高橋の問いに熊太郎が首をひねりながら答えた。
「それだよ。今のインドはイギリスに反発し、さらに国内でもムスリムとヒンズーが対立していて、不況という水がかかっていなければいつ爆発してもおかしくなかったんだ。そこに向かって投資をするなんて、危険な賭けだとは思わないかい?」
「あ……」
自分が浮かれていたことに気づいた熊太郎は赤面する。
「とはいえ、この話を受けないというのも、国内の景気維持のためにはまずいだろう。だから横田さん、基本的にはイギリスの提案を受け入れる方向で進めつつ、インドへの投資額はできる限り削らせる方向で交渉してもらいたい」
あくまで笑顔を崩さず、高橋は横田に提案した。
「うん、私もそれが一番いいように感じる。本多君、厳しい交渉になると思うが、よろしく頼むよ」
「……わかった。できる限りのことはする。高橋さん、我が国の国力を鑑みて、目安となる投資額を算出してはくれないか?」
「ああ、それなら別件でちょうど用意した統計を流用できるから、今週中には出せると思うよ」
その後、欧米とその植民地ではブロック経済圏が形成され、世界恐慌は結局史実と同じように長期化の様相を呈しはじめる。アメリカを中心とするドルブロック、フランスを中心とするフランブロックのほか、イギリス連邦に日本を加えた円=スターリングブロック、ドイツ帝国とオーストリア連邦にトルコなどを加えたマルクブロックが形成され、ブロック内で閉じた経済圏を構築し始めた。
ドルブロックとフランブロックは金本位制に固執したため失敗し、1936年までに崩壊する。一方で、豊富な資源とバランスの取れた生産力を有する円=スターリングブロックは早々に不況を鎮静化させ、マルクブロックも、ヒャルマー・シャハトが辣腕をふるって何とか経済を立て直した。
このように世界恐慌に対してはブロックごとにはっきりと明暗が分かれることとなり、少しずつ、対立も深まっていくことになる。
文章にうまく入れ込むことができなかったのですが、アメリカの世界恐慌対策が機能していないのは、世界恐慌の発生が1933年までずれてしまったため、1932年の選挙でフーヴァーが勝ってしまったためです。次の大統領選挙は1936年ですので、ここからほぼまるまる4年間、アメリカ人たちは無為無策な政府と大不況の中を生き抜かなければいけません。ご愁傷様です。
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