土光タービン
細々とですが、書籍版発売中です。詳細は活動報告に記載してあります。よろしくお願いします。
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2024/5/20:F-0エンジンの諸元を変更
夜になっても、石川島のエンジンテストベンチは休まず稼働し続けている。ただし、そこに据えられているのは、この世界で一般的な動力源ではない。
「なるほど、ターボ過給機のデモンストレーションは成功したわけですか。いやあめでたいですなあ」
「これで中村さん達がしばらく凌いでくれます。後は土光さん達の頑張りしだいです」
いま、ベンチで耐久試験をしているのは帝国人繊と石川島で共同開発しているターボファンエンジン「F-0」だ。耀子と話をしている土光敏夫は、F-0開発計画における石川島側の主任技師で、史実でもネ130をはじめとした数々の国産ジェットエンジンの開発に関わっている凄腕「タービン屋」である。
石川島重工業 F-0
形態:1軸ターボファン
バイパス比:0.99
圧縮機:遠心式2段
総圧縮比: 9:1
タービン:軸流式2段
推力:864 kgf(地上、静止)
直径:0.57 m
「成程、そいつは責任重大。それこそタービンの如く働かせていただきましょう」
「過労で死なない程度に頑張ってください。あなたが無理しないことより、倒れることの方が大きな損害になりますので」
「部下は私の事を『土光タービン』などとあだ名しとるようですが、なればこそ、産業機械は稼働率が命。加減を見極めることもまた、働き続けることに必要だというのは心得とりますよ」
「あはは……」
そう言い切る土光に対して耀子は苦笑した。彼は週6日出勤するだけならまだしも、元旦のような祝日さえ会社に行く「極まった」人間である。とにかくリラックスして働くことが、結局一番効率が良いと信奉し、多くの休日を設けて社員とともに休む耀子とは、意見に相違があった。
「しかし、耀子さんのフィルム冷却のアイデアには本当に助けられましたな。あれのおかげでタービンの寿命が一気に延びましたんで、帝国人繊さん……いや、日本のすべての飛行機メーカーに素晴らしいガスタービンを提供できるでしょう。新興財閥の創業者というのはやはり違いますなあ。私も見習いたいものです」
一方、土光自身は率先垂範を大切にする人物で、上に立つものが率先して部下の手本になることを好んでいる。このため、技術的な会議に積極的に出席し、現場と垣根なく議論しあって、知恵を出してくる耀子の事を素晴らしい人間であると思っていた。彼女自身が、自分は現場に過干渉しているとよく反省していることも知らずに。
「私もまさかこんなに効果があるとはと驚いているところですよ。最初に作ったフィルム冷却無しのタービンは、10時間持ちませんでしたもんね」
ベタ褒めしてくる土光に対して耀子は苦笑しっぱなしだ。このフィルム冷却も前世の知識で知っていただけで、彼女はタービンの事なんかほとんどわからないのである。
ちなみに、ターボジェットではなくターボファンにしたのも耀子の発案であるが、このファンについては令和の時代においてCFRPで作ることが一般的になりつつあったため、多少は理解している。北樺太のおかげで一応産油国になったのにもかかわらず、耀子が軍民双方でモータリゼーションを起こした影響により、結局燃料の自給率がよくないことも念頭にあった。
「いやあ、あれにはまいりましたよ。ですが、それももう過去の話。推力は計画通り出てますから、後は各種耐久試験を実施して、生産する準備を整え、整備マニュアルをつくり、軍民に啓蒙すれば大丈夫でしょう。安心してお任せください」
「ありがとうございます。ですがこのエンジンは『音よりも速く飛ぶ』ためのスタートラインにすぎません。もっともっと出力も燃費も改良していって、我が国もジェット機大国にしてしまいましょう」
思えば、彼女が歴史改変を決意したきっかけも、GHQの横暴により、史実日本がジェット化の波に乗り遅れたことが原因である。転生してから30年余り、それだけの時間努力し続けて、ようやく彼女は自分の望みの一部をかなえられるようになったのだった。
自分で書いてて思ったんですけど、ようやっとここまで来れたって感じですね……
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