不具合をつぶし切ったと言えば聞こえはいいが
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この世界の陸戦の常識をひっくり返し、装甲戦闘車両による高火力機動戦を大正義にしてしまった歩兵戦闘車の走り。それが当時の大阪砲兵工廠が帝国人繊から発動機を提供されて開発した三年式突撃車である。
「欧州大戦で活躍し、少し前から日本軍のお古が払い下げられてチベットでもよく見かけるようになったから、皆は三年式突撃車が好きなんだよね」
と、某西蔵の砂狐もコメントした通り、チベットや日本では国民の間でもよく親しまれたワークホースであり、無敵の存在であった一次大戦から、改良を重ねても陳腐化がごまかせなくなったロシア戦争まで、歩兵の足として、頼れる相棒として活躍している。
「他国がより強力な突撃車を配備したことや、対突撃車戦闘は戦闘車に任せるようになったことから、強力な突撃車を配備する必要性は低い」
「でもそれはそれとして、三年式は大分設計が古くて操縦性とかに問題がありましたから、最新の設計技術で構造を刷新してやる必要があったわけですね」
そうして出来上がった試作車がこちらである。
陸軍技術本部 試製九三式突撃車
全長5.2m
全幅2.0m
全高2.4m
戦闘重量:8.5t
乗員数:2名(運転手、車長兼無線手兼砲手兼装填手兼分隊長)
兵員数:8名
主砲:毘式40mm機関砲
装甲
砲塔正面:25mm
砲塔側面:13mm
砲塔天蓋:13mm
砲塔背面:25mm
車体正面
上部:25mm25°
下部:25mm50°
車体側面:13mm90°
車体背面:13mm90°
車体上面:13mm
車体下面:13mm
エンジン:三菱内燃機製造 "UW6V40D" 水冷120°V型6気筒OHVユニフロー式ディーゼル
最高出力:240hp/2200rpm
最大トルク:82.9kgm/1600rpm
最高速度:42km/h
「性能上は動力性能が上がって正面装甲が多少厚くなった程度。だが中身は原君に開発してもらった操行装置をはじめとして劇的に変わっている」
「足回りもリーフボギーからトーションバーに換装しましたからね。改良型の十二年式と共通のディーゼル発動機は粘り強くて扱いやすいですし、操縦するのにかなりの熟練度を必要とする三年式と比べれば雲泥の差ですよ」
とはいえ、この試製突撃車はここからが大変だった。
「良いクルマだ!このまま採用しよう!」
という者も居れば、
「40mmは貧弱過ぎる。歩兵砲や迫撃砲が欲しい」
という者、
「いや、75mmは小回りが利かない。同じ40mmでも、そろそろ海軍で開発が完了する方の長砲身40mm機関砲にしよう」
と反対意見を述べる者、
「車長が何でもかんでもやるのは無理だ! 戦闘車と同じように複数人乗りの砲塔にしてくれ!」
と機械化歩兵分隊の編成に影響するレベルの意見を言う者、
「他国の突撃車を圧倒できる装甲と火力が必要なんだ! そんな貧弱なクルマ要らねえ!」
と過去の栄光が忘れられないものなどなど、テストしてもらった歩兵部隊ごとに違うことを言ってくるため、陸軍技術本部の技官たちは混乱してしまう。
「騎兵科の連中はみんな文句言いつつ素直に乗ってくれるのに、歩兵科の連中ときたら好き放題言いやがってさ……」
「おかわいそうに……」
この騒動は耀子のもとにまで飛び火し、こうして延々と愚痴を言い続ける信煕とサシ飲みをする羽目になってしまった。
「なあ、俺はどうすればいいんだ?」
「まあ実際に作ってみて黙らせるしかないんじゃないですかね。折角ですし、仕様によって作る会社を変えてみて、三菱以外の調達先を開拓してみるのもいいかもしれませんよ」
車両を作る三菱の負担を減らしつつ、他の重工系企業にもチャンスを与えようと提案する耀子。
「そうか……帝国人繊、いや、三共内燃機は参加するか?」
「うーん、できそうですけど遠慮しておきます。三菱さんの不興を買いそうなので……」
令和の発想で作られた生産ラインにより、ジムニーやウィズキッドを次々と吐き出す三共内燃機の工場はその生産能力を持て余しており、採算をとるためにボディラインの工員たちを早上がりさせるのが常態化していた(製造に手間のかかるエンジンや変速機の工場はフルタイムで操業している)。
とはいえ、帝国人繊が三菱と仲良くやってこれているのは、あまり直接競合する分野がないからというところがある。特に何か取り決めをしているわけではないし、実際にコンペに参加したところで三菱から嫌われるとは思えないが、ゴダード博士のロケット開発や、航空魚雷に続いて始まった艦載魚雷用FRP酸素タンクの開発など、同時に並行しているプロジェクトが多いのもあって、あまり手を出したくない気持ちが耀子にはあった。
「そうか……なら推薦するとしたらどこだ?」
「うちのジムニーコンポーネントで車を作っている会社ですかね。例えば石川島、もしくは瓦斯電、あるいはオオタとかよさそうです。今は自動車そのものは作っていませんが、日本産業や豊田式織機も興味を示すかもしれません」
オオタ以外は令和の現在も日本の主要な自動車メーカーとして、名前は変わっているものの活躍している企業である。この世界線でも変わらず、自動車だったり、それ以外の事業だったりで業績を伸ばしていた。
「なるほどな……もしかして、こういうのは定期的にやった方がいいのか?」
「その方がいい気がしますね。飽きたり余裕の無かったりする企業に無理強いしなければちょくちょくやるべきだと思います。経営が傾かない程度に挑戦させると、日本楽器製造みたいに本業とはいったい何だったんだろうってくらい万能な企業になれますよ」
「それを言ったらお前のところだってそうだろ」
「それもそうですね」
イラついた様子だった信煕にも、ようやく笑顔が戻った。
この話とは関係ないですが、チベットの砂狐を久々に更新しています。
https://ncode.syosetu.com/n0421hk/32/
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