至高の中戦闘車、あるいは果て無きシーソーゲーム
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「本命というか、我が国で使える限界の大きさの戦闘車を作ったら、拡張性の高さのおかげで長いこと使えそうというのが正しそうですが」
彼らの視線の先にあるのは、ロシア戦争での戦訓を取り入れて改良された十二年式中戦闘車の2型である。
陸軍技術本部 試製十二年式中戦闘車 2型
全長4.9m
全幅2.5m
全高2.4m
戦闘重量:14.8t+増加装甲1.2t
乗員数:4名(運転手、車長兼無線手、砲手、装填手)
主砲:十二年式車載砲
口径:75mm
砲身長:3.4m(45口径)
砲口初速:750m/s
装甲貫通力
破甲榴弾:84mm/90°@100m、73mm/90°@500m
九一式徹甲弾:101mm/90°@100m、92mm/90°@500m
装甲
砲塔正面:75mm
砲塔側面:25~40mm
砲塔天蓋:10mm
砲塔背面:25mm
車体正面
上部:40mm25°
下部:40mm35°
車体側面:25mm90°+増加装甲13mm90°
車体背面:5mm90°
車体上面:10mm
車体下面:10mm
エンジン:三菱内燃機製造 "UW6V40D" 水冷120°V型6気筒OHVユニフロー式ディーゼル
最高出力:240hp/2200rpm
最大トルク:82.9kgm/1600rpm
最高速度:42km/h
「車体正面の形状を最適化し、装甲厚も増加。主砲は十二年式車載砲が現状でも十分強力なので、こちらに一本化したうえで砲塔と一緒に据え置きと」
「まだまだ大きな砲塔を載せることもできるし、大きな砲塔が載るということは大きな主砲が載るということでもある。大きな主砲が載るということは、他国が装甲戦闘車両の改良に勤しんでいてもなお、それだけ戦力に数えられる時間が長くなるということだ」
「貧弱な戦車でも、貫通力があれば一矢報いることはできるというのが、チベット軍から教えてもらった貴重な戦訓だからな」
チベット陸軍はその規模こそ中小国相応だったが、日英からの援助と豊富な石油資源により、史実二次大戦前のチェコスロバキア陸軍より機械化されている。その小国が、他の列強と肩を並べてロシアと戦い、互角に渡り合った際に得られたことが、火力、もっと言うなら装甲貫通力の大切さだった。
「逆に敵車両の装甲を抜ける装備がないと、増援が到着するまで一方的に打ちのめされると聞いてますが……櫛淵殿、やっぱりそうだったんですか?」
「俺はその増援側の人間だったから、実際に見てたわけじゃないんだが……交戦区域に戦車隊が到着した時の歩兵たちの喜びようを見るに、本当に大変な目に遭うみたいだな」
「擲弾筒用の50mm成形炸薬弾の開発が完了した時、同期の歩兵科の奴からやたら感謝されたことがあったな。あいつもロシアの突車に追い掛け回されたことがあったんだろう」
「……やはり、火力と装甲は七難を隠すんですね」
「機動力もないと完璧とは言えないけどな」
戦車や歩兵戦闘車の恐ろしさと、それらがいかに戦場を変えてしまったのか、それらを開発することの大切さを三人はかみしめる。
「機動力と言えば、2型からは三菱のディーゼル発動機を使うことになりましたが、乗り心地はどうでしたか?」
十二年式中戦闘車の1型では、帝国人繊が一次大戦前に開発した空冷2ストガソリンエンジンを水平対向8気筒化して、三菱製の車体に搭載していた。2型からは、船舶用ディーゼルエンジンで経験を積んだ三菱が純然たる戦車用に開発した水冷2ストユニフローディーゼルエンジンに換装されていて、帝国人繊が供給する部品はなくなっている。
「そうだな。馬力は据え置きとのことだが、低回転から力があって車体をぐいぐい引っ張っていく感じがある。操縦性は上がっているとみていいんじゃないか。ただ、割と振動が来るし、結構やかましくて排気も煙いから、敵を待ち伏せする時に気になるかもしれない」
「2気筒減ってますし、ディーゼル発動機はもともと振動と騒音が大きくて排気も煤が多いですから……」
このUW6V40Dは、1気筒当たり1.3Lの排気量と40hp/2200rpmの出力を持つモジュラー設計可能な2ストディーゼルである。6V、すなわちV型6気筒の場合は排気量7.8L、最高出力240hpとなり、これは史実で1938年に開発され、長きにわたって活躍したデトロイトディーゼル(当時はゼネラルモータースの1部門)の「シリーズ71」に近い性能を持っていることになる。帝国人繊系エンジンを真似てモジュラー設計を採用しているから、今後さらに装甲が厚くなって重量が増えても、V8、V10、V12と簡単に大型化・高出力化を図ることができ、それを行うだけの車体容積も、十二年式なら確保できそうだ。
「帝国人繊からも、そこの試製九三式軽戦闘車と同系列のエンジンを6気筒化した発動機を提案されていたんだが、そっちの三菱のエンジンの方が明らかに燃費が良くてな……」
「もっと軽油の使用量を増やしてガソリンをその分節約したいという大蔵省からの要望もありましたので、ディーゼル発動機を採用することになったんです」
史実同様、三菱の戦車用ディーゼルエンジンが壊滅的に低性能で、21L以上の排気量がありながら170hpしか馬力が出ないようなどうしようもない状態だったら、帝国人繊のエンジンが引き続き搭載されていただろう。しかし、この世界線では三菱のエンジン設計士のエース「深尾淳二」が船舶用ディーゼルエンジンの設計部門に居続けており、帝国人繊が三菱とたびたび技術交流・提携を行っていることから、史実とは比べ物にならないほど国産ディーゼルエンジンの性能が向上していたのだった。
「逆に軽戦闘車の方も三菱からそこのV6発動機を直4にした発動機を提案されていたんだが、少しでも軽くしたい軽戦闘車とはかみ合わせが悪くて不採用にした。まあ適材適所というような奴なんだろうな」
「用兵側としても悩ましいな……帝国人繊のガソリン発動機の方が絶対的な性能は良くなるんだろうが、三菱のディーゼル発動機の方がトルクはあるから操縦手は特に楽だろうし……」
「耀子は『火炎瓶とかで燃やされやすい陸上車両は、本来ディーゼルエンジンの方が都合がいいんです。軍用車両開発において、自分たちの役目は終わったのかもしれませんね』とか言って満足げな表情を浮かべていたな。ほんと、物欲の無い奴だよ」
帝国人繊も三菱も、自社の利益より国益を優先して動こうとする財閥である。この2社の関係が良好なのは、似た者同士気が合いやすいからなのかもしれない。
チハのエンジン、びっくりするくらい大きいくせに、びっくりするくらい低性能なんですよね。開発者たちはなんかおかしいと思わなかったのかな……
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