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書籍版発売直前記念閑話:帝国人造繊維発動機開発部

書籍版発売までいよいよ4日間です!書影も先日公開され、後は店頭に並ぶのを待つばかりになっています!詳しくは活動報告をご覧ください!

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1980903/blogkey/3066276/

今回も発売直前を記念して閑話を書きました。楽しんでいただければ幸いです。

「ようやく終わった~」

「耀子さんが受験で抜けるって聞いたときはどうしたもんかと思ったけど、何とかなるもんだね」


 1913年、帝国人繊発動機開発部の豊川順彌と辻啓信は、帝国人繊の自家製エンジン「A040A」の量産が無事に始まったと聞かされ、ほっと一息ついた。このエンジンは世界初のCAS機「金鵄」や、同じく世界初の歩兵戦闘車「三年式突撃車」に搭載されることが決まっており、これらの兵器はA040Aの性能ありきで設計されていたため、なんとしてでも量産までこぎつける必要があったのである。


「だから言ったら? お客様の求めるもんなら、何をしてでも応えろ。頑張ればできるもんだってな」

「ああ、道雄さん。お疲れ様です」


 去年入社したばかりの二人は、帝国人繊創業時のメンバーである鈴木道雄に頭を下げた。


「うちはまだまだ仕事が残ってんだけんど、キリが良いところではあるもんだに、そっち覗きに来ただよ」

「それはそれは……このたびはまだ入社したばかりで右も左もわからない私達をご指導いただき、ありがとうございました」


 生産設備の故障対応担当からたたき上げで頭角を現し、今では生産技術部のエースとして縦横無尽の働きをする彼は、あらゆる製品の開発部署から頼りにされている。勿論、豊川たちが所属する発動機開発部も例外ではない。


「しかし、我々はこれから何をするんですかね。しばらくはA型発動機の改良作業なんでしょうか」

「ああ、それについてなんだけんど、うちにゃあ耀子さんから手紙が来てたっけやあ。おみゃーさんらのところにゃあまだ届いて無いっけ?」

「いや、そう言うものが来ているかどうかも気にする暇がなくてですね……」

「ちょっと見てみます」


 そういうと啓信は社内の郵便受けを見に行った。


「……ありましたね。すみませんでした」

「中見てみ。次の仕事が書いてある」


 啓信が封筒を開けると、手紙と、急いで描かれたらしきジムニーのコンセプトアートが入っている。あくまで材料屋さんである耀子なりの、仕事の発注方法であった。


「えーと『発動機開発部に置かれましては、小型輸送機械用新型エンジンを開発していただきたいと思います』?」

「ユニフロー掃気エンジン……排気をシリンダー側面のポートではなくポペットバルブから行うことで、ループ掃気よりさらに高効率なエンジンとする……はあ……」


 まだ経験の少ない二人は、何ともチャレンジングな要求を目の当たりにして呆然とする。


「……道雄さんとしては、どこが難しいと思いますか」


 しばらく経って、ようやく豊川が言葉を絞り出した。


「シリンダーかね。A型んときゃ燃焼室に点火栓しかなかったもんで、シリンダーとクランクケースを分割するだけで済んだんだけんど、これは燃焼室に弁があるだに、シリンダーをさらにブロックとヘッドに分割せにゃならんら。部品っちゅうのは合わせ目が増えれば増えるほど、そこをピタッと合わせるのが大変に(えらく)なってくるし、特に燃焼室周辺はどえれー高圧になるに、合わせ目から漏れんようにするのはばかえれえと思うだよ」


 ここに来るまでの間、あらかじめ耀子の絵を見ていたというのもあるが、道雄は的確に生産上の課題を指摘する。遠州訛りが強かったため、今年入社したばかりの蒔田哲司──彼は静岡県出身である──が居たら、もう少しわかりやすかったかもなあと二人は思いつつ、道雄の経験に裏付けられた勘の鋭さに圧倒された。


「……」

「でもな、ここ見てみ」


 二人が道雄に指さされたところを見ると、そこには

「この車は日本のどんな野山も走破できるような、力強い車です。平坦なところを走ることしか考えていない欧米の車と違って、起伏が激しく、ロクに舗装されていない日本の道を走ることができる、日本の車になるのです」

という耀子の説明が書かれている。


「まだまだこの国は貧乏で、獣道みてえな悪い(おぜえ)道でどこかに出かけなきゃいけねえ衆がたくさんいる。当然徒歩だ。けがをしたり、亡くなったりする人も居るだら。このジムニーっつう車は、そんな衆らの命を救う車になるかもしれねえ」

「つまり、お客様は、どんな悪路も走れる車を欲しがっていて、どんな悪路も走れる車を作るためには、小型でも力強い発動機が必要だということですね」

「うん」


 豊川の言葉に、道雄は力強くうなずいた。


「それじゃ、明日からまた頑張ろうな」

「はい!」


 道雄の言葉に、二人は元気よく返事をする。偶然なのか必然なのか、帝国人繊には豊川をはじめとする史実白揚社のメンバーが集まり、この世界におけるジムニーの開発陣として試行錯誤を続けることになった。その努力が結実したのが、1920年のラリー・モンテカルロだったのだろう。

そういえば発動機開発部ってネームドいなかったよなあと思いながら書きました。

前書きでも言いましたが、書籍版発売まであと4日間です!本作を応援していただける方、何かしら面白いと思っていただけた方は、ぜひ評価(★★★★★)をつけていただけると非常に助かります!よろしくお願いします!

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挿絵(By みてみん)

本作世界のチベットを題材にしたスピンオフがあります。

チベットの砂狐~日本とイギリスに超絶強化されたチベットの凄腕女戦車兵~ 

よろしければご覧ください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 当時の日本の道路事情は酷道ですから。 [一言] ジムニーが日本のモータリゼーションの起爆剤になった理由も分かりやすかったです。
[一言] そういえば、書籍化でジムニーの名前使うのにスポンサーに引き込まなきゃですな(笑)ただ、いい歳の担当者に最近のラノベタイトルが受け入れられるのか…
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