ポストノーフォークバンク戦艦~諸外国の場合~
書籍版発売までいよいよ一週間です!書影も先日公開され、後は店頭に並ぶのを待つばかりになっています!詳しくは活動報告をご覧ください!
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「とはいえ、現役の船の事については、いかに同盟国と言えど我々も詳しく知っているわけではない」
「ロシア戦争では共同作戦をする機会がありませんでしたからね」
「間に大きな大きなユーラシア大陸が横たわってましたから……」
同盟相手と言っても所詮は他国である。海軍同士は共同作戦が難しい関係上、その所属軍艦の仕様に関しても共有するメリットはあんまりなかった。
「なのでふんわりとした話しかできないが、勘弁してくれ」
「いえいえありがたいですよ」
謙遜する武彦に対して、耀子はそれでも問題ない旨を告げる。
「さて、日本は快速重装甲路線をさらに突き進むことにしたわけだが、イギリスはとにかく速度と火力を重視し、戦艦の建造を取りやめて巡洋戦艦の大量整備に乗り出した。日本艦隊の救援が間に合った成功体験に味を占めたわけだな」
ユトランド沖海戦のように巡洋戦艦がボコボコ沈んだわけではなかったので、装甲の薄さに問題があるという認識はなかったようだ。
ただし、当のイギリス海軍ですら間違った認識をしている雰囲気があるが「速度こそ最大の防御」という思想は、「相手より速力で上回っていれば、安全な遠距離から一方的に殴り倒せる」という意味である。つまり、ノーフォークバンク海戦では「遠距離砲戦になると上面装甲を抜かれやすくなる」という知見が得られたということで、さすがのイギリス海軍も巡洋戦艦の上面装甲を強化する改修を順次施した。ただし、舷側装甲は薄いままである。
「薄い装甲……大きなバイタルパート……何も起きないはずもなく……」
「何だその妙に艶やかな語り口は……ともかく、この巡洋戦艦群がロシア戦争で大打撃を受けた」
「……正確には、差し違えられてしまった、というところでしょうか」
「そのとおり。ドイツ海軍と共同でバルト海に出撃したイギリス軍は、ロシア海軍を撃滅するという目的を達成できたものの、インヴィンシブルやクイーンメリーが爆沈し、38糎の主砲とそこそこの傾斜装甲を備えるフッドですらも大損害を被る失態を演じてしまった」
武彦は知らないが、このときのフッドの舷側装甲は203mmしかなかった。絶対的な厚みが不足しているし、何よりバルト海の近距離砲戦では装甲を傾斜させる意味がほぼ失われてしまう。このため、同クラスの砲の中では大重量の砲弾を高初速で発射するロシアの305mm砲に貫通を許してしまったのだ。
「ギリギリフッドは吹っ飛ばなかったんですね。ドイツ海軍にも沈没艦は出たんですか?」
「大なり小なり損傷こそ負ったものの、沈没艦は出ていない。この結果を見て、イギリス海軍もようやく軽防御路線を捨てて十分な装甲厚を持つ高速戦艦を作るようになったようだ。例えば、カナダとかオーストラリア……要するにコモンウェルス級戦艦だな」
海軍情報部は朧げにしかつかめていないが、実際のコモンウェルス級戦艦のスペックは以下のとおりである。主砲の口径こそ加賀型に劣るものの、火力、速力、防御力のバランスに優れた優秀な戦艦だ。……バイタルパートを短縮するため主砲が艦首に集中しており、案の定フロントヘビーで運用側の苦労は絶えないようだが。
コモンウェルス級戦艦
排水量:37300t
全長:271m
全幅:33.8m
機関:アドミラリティ式重油専焼三胴型水管缶20基+ブラウン・カーチス式ギヤード・タービン4基4軸推進
公称出力172000shp
速力 全速前進31kt 前進一杯34.8kt
航続距離19ノット/8000海里
兵装
45口径406mm三連装砲3基(艦首側3基。背負い式配置)
45口径119mm連装両用砲7基(砲塔)
39口径40mm連装機関砲13基(砲架)
装甲
舷側:380mm/15°(最厚部)
甲板:115mm(最厚部)
主砲塔前盾:406mm
主砲塔上面:185mm
主砲バーベット:380mm(最厚部)
司令塔:380mm(最厚部)
「このあたりで、加賀型に載っている主砲の原型が、宙に浮いてしまったというところですかね。大口径の艦砲はそれだけでとても重いものですから」
「いや、それはもっと前、ノーフォークバンク海戦の後だと聞いている。457mm三連装砲を載せる低速戦艦が設計されていたそうだが、速力に劣る戦艦は不要ということで建造が取り消されたそうだ」
「名も知らぬ造船所の皆さん……お悔やみ申し上げます」
作っていたものをキャンセルされた悲しみを察して、耀子は造船所に同情する。
「ほかの国はどうでしょうか」
「ドイツ、オーストリア、イタリア、フランスといった欧州の国は、航続距離や居住性に気を使う必要がないから、そこまで突飛な性能の船を作る必要がないようだな。アメリカは……一次大戦前のイギリスと似たような感じだ。快速軽防御の巡洋戦艦と、低速重防御の戦艦の二本立てのように見える」
実戦経験に乏しいアメリカは、概ね史実通りのレキシントン級巡洋戦艦を6隻整備し、さらにダニエルズプランで設計された方のサウスダコタ級戦艦も6隻を整備する予定になっている。この12隻だけで50万tを超える排水量になるのだから、日本としては頭の痛いところだ。
「戦艦についてはこんなところでいいか?」
「はい。ありがとうございます」
長時間喋り倒した武彦は、耀子からお礼を言われるとため息をつく。
「向こうから飲み物をとってきてもいいか? さすがに喉が渇いた」
「あ、それなら私が取ってきますよ。私の家ですし、世間的にも私がすべきでしょうから」
そう言うと耀子は、何か飲み物を取りに席を立った。
前書きでも言いましたが、いよいよ書籍版発売まで一週間です!私の手元にはすでに見本が届いており、いよいよなんだなあという感慨と不安でいっぱいです!
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