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不穏な正月-3

先日印刷所に入稿されたらしい物理書籍の予約注文、絶賛受付中です。

詳細は活動報告をご覧ください


https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3053369/

 軍縮条約に政治的な影響があるということから、鷹司兄弟が追加で招集されることになった。


「それで私共が呼ばれたということですか」

「今日ぐらい甥っ子や姪っ子とのんびりしたかったんだけど……」


 子供たちの相手をしていたらしい信輔は不満たらたらである。


「すまない。親戚の集まりを隠れ蓑にしたくなるほど、内密な話だったのだ」


 事の発端である武彦が詫びる。今の彼には、決して無視できない影響力があり、


・今まで続けてきた「御国航空練習場」の卒業生が相当数軍に入り込んでいる

・武彦本人の階級も中佐まで昇進している

・「空の宮様」として国民的な人気がある

・航空派の人間であるとみられている


と言った理由で海軍内に武彦の派閥が形成されているのだ。なので彼は自分の動きをどこかに悟られて、おかしな事件が起こることを防ぎたかったのである。


「そうそう。なぜかというと、かくかくしかじかしかくいムーヴって感じでして……」


 そう言って耀子は実兄二人に、統帥権干犯問題や、今でもたまに起こっている閣内不一致が原因の内閣総辞職の問題について話した。


「なるほどねぇ。僕は陛下と仲良くさせてもらっているし、貴族院議員でもあるから、憲法を改正しようと思ったら、この中だと僕と芳麿君がやるしかないなあ。佐渡島朱鷺保護区の時で大体のコツはつかんでるから、年単位で時間をくれるならできると思うよ」


 事情を聴いた信輔が耀子たちの頼みを了承する。


「信輔お兄様……本当に頼もしくなって……」

「煽ってるみたいだからやめよう、耀子さん」


 感激した耀子が泣くふりをしたため、さすがにどうかと思った芳麿がそれをとがめた。


「それはさておき、私や軍籍がある皆様には国会対策ができませんので……引き受けていただき本当にありがとうございます」


 耀子が頭を下げる。女性の参政権そのものは、普通選挙制と入れ替わるように1925年から与えられていた。女性参政権が与えられてから初めての選挙の日、耀子は鈴木商店の名目上の支配人である鈴木よねと投票所に行き、その様子を新聞社がカメラに収めている。


「しかし信輔さん、以前だったらもう少し渋ってたと思うんですけど、今回素直に引き受けてくださったのはどうしてですか?」

「僕もそろそろ後進の育成に力を注ぐときかなと思い始めていてね。鳥の研究に専念し、希少な鳥類をきちんと保護できる平和な世の中を作ることに軸足を置いてもいいかなと思うようになったんだ」


 信輔の心境の変化は、耀子からのここ最近の手紙をきっかけにしていた。この時代にメールはないため、離れた家族と何気ない話をするためには、必然的に手紙を使うことになる。耀子も例にもれず、他愛もない話を手紙にして信輔や信煕に送っているのだが、この中で耀子は割と前から


「会社の技術者が足りていない。後進を育成し、彼らが伸び伸びやれる環境を整えないといけない」


という話を何度かしていたのだ。本人にとっては完全に愚痴のつもりだったのだが、思わぬ効果を得ることができたらしい。


「そうですよね信輔お兄様。やはり、私達の次の世代、次の次の世代を育てていくことも大事ですよね」


 耀子は大袈裟を何度もうなずいて見せた。


「でもこれ、内閣の方は急ぎじゃないにしても、統帥権の方はすぐにやらないとダメだろ。どうするんだ?」


 会議を眺めていた信煕が発言する。


「とりあえず、国会議員が余計なことを言わないようにすればいいんですよね……憲法改正の発議はそれからでもいい……」

「先のロシア戦争で、臣民の輔弼があったからこそ十全に軍を統帥することができたと、公式に振り返っていただく、あるいはそのようなことを仰っていたと噂を流すだけでもいいかも」

「それなら僕か、信輔さん……いや、二人一緒に陛下の元へ行きましょう。その方が軍の話題に持っていきやすいはず。陛下にお会いする口実は、今なら新年のご挨拶ですけど、流石にそこでする話題じゃないか……?」


 信輔が解決案を出し、芳麿が具体的な実行方法を考え始めた。


「急ぎといっても今年中に何とかすればいい話なので、根回ししながら考えてください。急いては事を仕損じますので」

「それもそうか。それじゃあ、早速探りをいれてくるから……耀子さん、ウィズキッドを借りるよ。信輔さんも一緒にお願いします」


 芳麿はそう言うと、信輔を連れて車で外出しようとする。


「はい。安全運転五則を意識して、無事故無違反でお願いしますね」

「はあ、なんだか慌ただしい正月になってしまったなあ」


 妻はそう言って夫を送り出し、妻の兄はぼやきながら義弟と一緒に車で「あいさつまわりに」出ていくのだった。


「ところで耀子、質問があるんだが」

「なんでしょう」


 信煕の発言に耀子が応答する。


「俺、居る意味あったか?」

「あー……」


 結果的に役立ってくれたとはいえ、彼を呼ぶ意味はほぼなかった。いつもの悪巧みメンバーを集めるので、何となくついでに信煕を呼んでしまったのである。当然、耀子は信煕の問いに答えることはできなかった。

続刊できるくらい売れるといいなあ

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挿絵(By みてみん)

本作世界のチベットを題材にしたスピンオフがあります。

チベットの砂狐~日本とイギリスに超絶強化されたチベットの凄腕女戦車兵~ 

よろしければご覧ください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >耀子が頭を下げる。女性の参政権そのものは、普通選挙制と入れ替わるように1925年から与えられていた。女性参政権が与えられてから初めての選挙の日、耀子は鈴木商店の名目上の支配人である鈴木よ…
[一言] コモン・レールさん何故亜細亜に日本に続き先進国に 成れる国がないのか?解りますか? 私調べたら、儒教・ヒンディー・イスラム教・共産教 この4つにっ国民が汚染された国と、民族は 先進国には成れ…
[一言] トキで思い出した。アメリカの旅行バトは美味しすぎて狩りつくされた。もう手遅れか。
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