二代目作戦の神様
作者がここ最近何を書きたかったのか、大体わかりそうな感じの話です。
ハイファに上陸した日本軍は、砂漠を突っ切ってバグダッドから西に100kmほど行ったところにあるユーフラテス川西岸の町ラマーディーに集結した。日英の徹底した情報戦により、ロシア軍はこの時点でようやく日本軍がイラン・イラク戦線に参戦したことを察知する。
「なんでこんなところに日本軍が居るんだ!?」
「バグダッドに投入するつもりか?」
「両翼包囲されてバグダッド東側に居る部隊を孤立させられるとまずいかもしれんな……」
ロシア軍司令部はもともと多かったバグダッド周辺の部隊をさらに増強することを決定。しかし、戦力の移動が終わった後、彼らはさらに驚愕することになる。
「ラマーディーの日本軍が消えただと!?」
「くそっ!狙いはバグダッドじゃなかったのか!捜せ!」
日本軍はラマーディーでしばらく休息と整備を行った後、夜のうちにラマーディー西方の町ハディーサへ移動していたのである。ここでもう数日準備を整えた日本軍は、バグダッドから北に350kmほど離れた町モースルまで移動し、その南北から攻撃を始めた。
「機械化というのは素晴らしいな。やはり徒歩の歩兵ではこうはいかない」
戦況を眺めながら石原莞爾が独り言ちる。相手をしてくれる阿南は中東派遣軍隷下の機動第45連隊連隊長であるため、前線に行ってしまっていた。
「後は時間との勝負だ。モースルは両翼包囲して孤立させ、イギリス軍に後詰めを任せる。我が軍は勢いに任せてまずアルビールを攻略し、そこから東北東に突進してカスピ海迄の470kmを走破しなければならない」
ロシアの継戦能力は、豊富な資源を清に売りつけることによって維持されている。つまり、ロシアの資源を清まで届かせないことが重要であり、まずはイランを奪還してアバダンの石油を取り戻そうというのがこの作戦の目的だった。
「ロシアからイラン方面に延びる鉄道はコーカサスを経由する方だけで、トルクメニスタン方面からは鉄道はつながっていない。ロシア軍の兵站能力では、道路による補給だけでイランの陸上部隊を維持することはできない……!」
なお、史実ではコーカサス方面からもイランへは鉄道がつながっておらず、バクーまでで止まっている。ひとえにイラン内戦が泥沼化し、北部を親露派が支配していた影響に他ならない。
「後は、新疆の第12師団がうまくやってくれれば、バクーが取れなくてもいいだろう」
ちょうど同じころのウイグル。チベットで山岳戦訓練中に戦争に巻き込まれた日本軍第12師団は、一緒に進駐しているインド軍と協働して、カザフスタンのオスケメンに向けて進撃していた。
「思ったよりも敵の抵抗が激しくないな」
「イランの方で中東派遣軍が注目を集めてくれているからでしょう。彼らに感謝しないといけませんね」
実のところ、石原からすればこちらの方が主攻である。
「しかし、カザフスタンに飛行場を築いてシベリア鉄道を爆撃するとは、なかなかいい手を考える」
「ロシア国内の東西の行き来はシベリア鉄道が支えていますからね。ここを寸断してしまえば、極東……すなわち清との貿易も低調になります」
「そうなれば、ロシアに入る外貨も減り、アメリカから物資を購入できなくなって戦争を継続できなくなるというわけだ」
その理由は竹上師団長らが話していた通りで、シベリア鉄道を空襲によって寸断し、間接的にロシアを干上がらせることだ。イランを陸の孤島にしてもまだバクーがあるが、資源輸出が滞ればその分収入も減る。
「いずれは直接ノヴォシヴィルスクを占領したいものですが、今でさえ補給は限界ぎりぎりですから、果たして叶うかどうか……」
「やらなくても済むのが一番だろうな……」
結局、石原の立てた作戦はおおむね成功に終わり、中東方面ではカスピ海まで打通してイランのロシア軍を事実上孤立させ、カザフスタン方面ではシベリア鉄道を爆撃できる拠点を確保することができた。この作戦の成功により三角貿易が低調になったロシアは、徐々にその継戦能力を削がれることになる。
同時期のドイツとオーストリアは、冬の雪に続く春の泥濘で完全にロシア軍の攻勢がとん挫しており、前線の野戦築城もさらに充実してきたため、反撃と戦後の事を考え始めるようになった。そんな情勢の中、一人のチェコ人が、ドイツに居住するオーストリア人を訪ねていた。
「少し前にいいことがあってな、重役連中が大衆用小型車の開発を認めてくれたんだ!」
まるで子供のようにはしゃぎながら、オーストリア人の男、フェルディナント・ポルシェは、自動車レースで知り合った親友ハンス・レドヴィンカに語る。
「そろそろレース用の大馬力車だけでなく、大衆車の開発もしたいと言っていたもんな。おめでとう」
「政府のお偉いさんから打診があったらしい。ほら、戦況がだんだん好転してきて、これから取り返す領土の復興とかを考えられるようになっただろう?その一環として、国民生活の向上に効果があるような、安価な自動車をダイムラーに要望したらしい」
どこかで聞いた話だな、とレドヴィンカは思ったが無理もない。このアイデアはもともとヒトラーがドイツ軍の方の上司に訴えていたドイツ経済振興策の1つだ。これが今になって政府上層部に伝わり、担当者が乗っかったということである。
「最近似たような主張をするデザイナーを拾ってな。こいつがなかなか良い絵を描くものだから、企画が認められてこっちでも小型大衆車を作ることが決まったんだ」
「おお!そいつは良いな!どんなものが仕上がってくるか、今から楽しみだ」
なお、この一件でヒトラーは、あまりにも自分の意見を拾うのが遅いうえに、大して報いてくれないドイツ軍に失望し、能力を認めて厚遇してくれるレドヴィンカやタトラの方にだんだん軸足を置いていくことになった。
「私も君がどんなものを出してくるか今から楽しみだよ」
「……とはいえ、そう突飛なものが出てくるわけでもないよな」
付き合いの長い彼らは、お互いの手癖はよく知っているし、良いと思った相手のアイデアを取り込むことも日常茶飯事である。
「エンジンは?」
「空冷水平対向四気筒」
「排気量は?」
「1000~1500cc」
「レイアウトは?」
「リアエンジンリアドライブ」
「完璧だハンス」
「感謝の極み」
結局、外見はともかくとして、二人とも似たような性能の車を作ろうとしていることが判明した。
「……これ、ダイムラーとタトラでエンジンを共用した方が安く上がらないか?」
「金のない大衆も相手にする以上、安さは正義だろう。私も同感だ」
「とはいえ、うちの重役連中は頭が固い老害ばっかだからなあ~」
ポルシェが頭をかきながらため息をつく。史実と違って小型大衆車の開発が認められたため、彼はダイムラーを退職していない。それでも経営陣と衝突が絶えないのは史実通りであった。
「手紙でも良く愚痴ってるよね」
「そうなんだよ!あいつら自分たちがぬくぬくできるのは俺たち技術屋が優秀だからってことを理解してないんだ!どっかに手っ取り早い外圧でもあればいいんだがなあ……」
「まあ少なくとも、君から言ってもエンジン共用の話は通らないだろうね。可能性が低いが、タトラから言い出せないかやってみるよ」
「ありがてえ……やっぱ持つべきもんは話のわかる友達だよな」
タトラ内ではレドヴィンカの案がすんなり通り、タトラからダイムラーへ小型車用エンジンの共同開発を申し入れた。プライドの高いダイムラーは一旦この提案をはねつけたものの、最終的には自社の大衆車とタトラの大衆車でエンジンを共用することに合意することになる。
日本はもちろん、イタリア、フランス、イギリスから、強力なライバルが登場する見込みとなっていたからだ。
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